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新春トップインタビュー:日本旅行業協会会長 新町光示氏

  • 2008年1月8日
2008年は内側から変わるべき年
変化に順応しながら、近代的な旅行業への転換を


団塊世代の大量退職で、大幅な成長が期待された2007年だったが、蓋を開けてみれば海外旅行者数は前年比0.9%減の1739万人で着地するとの予測がされている。この状況下で、2004年に日本旅行業協会(JATA)会長の新町光示氏が提唱し、いまや国策ともなった2010年までの海外出国者数2000万人達成に向け、どのような取り組みが必要となるのか。旅行業界がとるべき方向性と今年にかける意気込みをうかがった。
(聞き手:副編集長 山田紀子 構成:秦野絵里香)
                                                                        


−2007年の海外旅行者数が伸び悩んだ原因はどこにあると考えますか。また、この状況の中、旅行需要を伸ばし、業界が繁栄するために必要なものは何でしょう

新町光示氏(以下、敬称略 新町) 海外旅行が停滞しているのは、今に始まったことではない。2000年まではほぼ右肩上がりで成長し、2001年の9.11のテロがなければ2007年には2000万人に達していたはずだ。しかし、そのショックと景気の悪化から、2001年からは伸び悩んでいる。

 その理由は、燃油費高騰や航空会社の路線縮小などの直接的な原因と、日本の経済構造の不均衡という間接的な原因がある。企業経済は伸張しているが、実際に働く人々に還元されておらず、少ない可処分所得を他産業と奪いあうことになっている。これは社会的な構造問題で、これについては行政に働きかけていきたい。

 ただ、旅行業界として最も重要なのは、内側から変える力、つまり経営力の強化だ。量を追うだけでなく、利益や健全な経営をめざし、他産業と競争できる力をつけなければならない。今までは外的要因に左右されるきらいが
あったが、今後は変化に順応し、自助努力による旅行業の近代化が必要になる。


−07年は業界内にも、コミッションカットやSAME DAY VOID、地上手配会社との取引、添乗委員の労働環境に対する指導、燃油費の高騰による旅行需要の影響などがありました

新町 日本の旅行業界は代理業という形から発展してきた。コミッションはカットされ、その面での増収は期待できない。古い体質の残像はあるが、そこからの脱却が必要で、少しずつ変化していると思う。燃油サーチャージやSAME DAY VOIDなども、代理店の業態に依存しているからこその問題で、それは議論しても仕方なく、発想を転換すればよいのではないか。ランドオペレーターとの関係や業界内の雇用環境も古い慣習が一部残っており、これもより近代的な姿に変わる余地がある。新しい体制になることで、旅行業界に良い人材も集まってくるのではないか。旅行業界は変化に影響されやすいが、適応する強さを持っていると思う。


−2008年も0.1%減と芳しい見通しではありません。このなかで2010年に2000万人の達成に向けてどのように先導されますか

新町 今年も経済環境はいい面もあるかもしれないし、悪い面もあるだろう。兆候として経済の先行きに不安を持ち始めているという話があり、経済構造がすぐに好転する期待は持てないのではないか。状況はかなり厳しいとあえて認識し、その上で「2010年には必ず達成させる」という意気込みを示したい。大きなプロジェクトを立ち上げて、国や観光局を巻き込んで業界に大きなうねりを起こそうと考えている。

 今までJATAは、どちらかというと制度的な面での行政や航空会社と交渉する役割が多かったが、今後数年は2010年に向け、本当の需要喚起にどれだけ貢献できるか、JATAの真価が問われるという覚悟でのぞむつもりだ。2008年度の予算は需要喚起とマーケットの拡大を柱として組み、真剣に集中して取り組みたい。従来とは考え方を変えなければならない環境にあると認識しており、その1つが2000万人推進室だ。海外旅行委員会の各社から若いスタッフを派遣していただき、新しい発想で需要をつかんでいく。これからは新しい人材にもどんどん活躍して欲しい。発想は常に新鮮でなくてはならず、既存のブレーンだけでは同じパターンになってしまう。


−需要喚起に向け、具体的には何が必要だと思いますか。特に人口が減少する中での出国者増加に向けた方策も教えてください

新町 とにかく、デスティネーションの強化が基本になる。旅行に行きたいではなく、海外の「あそこに行きたい」と思わせることが重要だ。これからやらなくてはいけない1つの問題だと思っているのが、ハワイやアメリカなど従来の強いデスティネーションの集客力が弱くなってきたこと。マンネリ化した商品が多いためで、これはマーケティングや新しい価値を加えるなど、努力すればもっと本来の魅力を打ち出すことができるはずだ。まだやれることはたくさんあると思っている。

 平行して、アジアなど新たなデスティネーションの掘り起こしも必要。今、伸びている中国やマカオは、それを長続きさせるための取り組みを開始する必要がある。デスティネーションの魅力を打ち出せたら、あとはそれを伝える、見せる方法だ。それは各社の戦略次第だが、例えば最近は海外をテーマにしたテレビ番組も多く、「これで行った気になる」という意見もあるが、場合によっては提携し、旅行に直結する形で提案していくことも考えられる。旅行会社の経営が成り立つような商売の仕方をどう見つけるか、という課題はこの次のことだ。


−今年は観光庁の設立が正式に決まり、観光への注目が高まると思いますが

新町 国が観光行政の重要性に気づいたことはうれしいこと。ただ、観光庁ができたからといって問題が解決するわけではない。旅行商品を造り、販売・送客、またはサービス提供するのは民の仕事。自分達でやることはしっかりやっていかなければならない。

 国際相互交流の視点を忘れてはいけない。訪日客を期待するように、諸外国は日本の旅行者を待っている。ただ、海外旅行に行きたいと思っても、それを促進する環境でなければ活性化は図れない。今、政府は外客誘致と地域活性化の策として「YOKOSO! JAPAN」に力を入れているが、そのためには本当に魅力ある国であることが必要で、そういう意味では観光庁の仕事は「YOKOSO! “魅力ある”JAPAN」作りだ。

 国の魅力は国民自身であり、国民が作っていくもので、先ほどからの懸念点である構造改革がされれば、ゆとりある生活が生まれ、海外旅行に行ったり、地域の魅力作りにも気を配ることができる。そのための整備が観光行政だと期待している。

−ありがとうございました