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観光素材を販売する観光局が増加−情報、利便性の一つとして

  • 2007年10月31日
観光局の活動の最大の目的は、観光客の誘致と観光客の現地での経済活動による消費額の増大だ。それに加え、最近では観光局がさまざまなツアー、チケットを「販売」することも増えてきた。欧州の2つの観光局に、こうした動向について聞いた。


▽英国政府観光庁(VisitBritain)の場合

 英国政府観光庁(VB)は今年6月から、ロンドン交通局が発行するバス、地下鉄等で利用できる交通用ICカード「オイスター・カード」のオンライン販売を、日本市場で開始した。VBは昨年秋にインド、香港、シンガポール、スペイン、ポルトガル、アメリカで販売を開始、その他の国では今年3月ごろから手がけ、日本でも他国と同様に始まったもの。旅行会社にはオイスター・カード、ブリットレイル・パス各種、ロンドン・トラベル・カードなど交通パスをまとめて販売している。日本では旅行業法があるが、観光関連商品の販売は宿泊とパッケージとなっておらず、販売の主体は英国の本庁であることなどから、法的な問題は無い。

 こうした活動について、VBアジア・太平洋地区ジェネラル・マネージャーのキース・ビーチャム氏は、観光局が新たなニーズを求められていることを指摘する。「観光局が従来の目的としてきた観光客の誘致、消費額の増大という目的と、観光地や観光素材の持続可能な発展を求められる中で、生まれてきたかたち」という。
「昔は旅行会社を経由することが消費者へアピールする手段であったが、欧州では特にオンライン化が進んでいる」という背景も原因の一つだ。観光局は従来から情報発信を手がけており、オンラインでの情報発信は早い時期から取り組んでいた。このサイトに「情報を取りに来た人に対して、購買するための『リンク』をつけたこと」がこれまでとの違いだが、VBのプロモーション等に協力する「パートナー」の交通機関、ホテル、航空会社などは「チャンスが増える」と好意的だという。

 ただ、VBとしては今後、「パッケージとすることはない」と、ビーチャム氏はいう。その理由は「われわれは旅行会社ではなく、観光局(National Tourist Office)である」だからだ。「オイスター・カードは販売手数料率も低いが、デスティネーションとして販売が必要なもので、消費者に付加価値を提供できるもの」との位置づけで、各種の販売についても消費者への「付加価値」を考慮しながら手がけていく。


▽ハンブルグ観光公社の場合

 ハンブルグ観光公社マーケティング部長のベッティーナ・ブンゲ氏は、現在の活動費用の出所は7割が民間、3割が行政とした上で、「オペレーター化している部分もある」という。実際、ハンブルグ観光公社のサイトではホテルの予約、オペラなどの鑑賞券の販売などを手がけている。

 こうした販売に力を入れるようになったのは、格安航空会社(LCC)の興隆がある。ハンブルグ観光公社の資料によると、2003年の就航はロンドン、ボン、チューリッヒ、ニース、ミュンヘン、ローマ、ウィーン、リーガ、タリンの9都市であったが、2007年には60都市超と、4年間で6倍以上の規模で就航地が拡大している。この競争は旅行需要を大きく拡大しており、例えばLCC利用者は友人訪問が多い特徴があるなど、これまでは旅行に結びつかなかった需要を喚起していることも想定される。ある調査によると、LCC利用者のうち、ビジネス旅行が2割、個人旅行が3割、友人・親族訪問が4割強だが、定期便利用者はビジネスが3割超、個人旅行が2割強、友人・親族訪問が3割強ともいわれており、ヨーロッパ域内での旅行者の目的も変化していることが伺える。

 こうした状況を踏まえ、ハンブルグのサイトでは、観光局として情報提供とともに、街を訪問する人たちに楽しみを提供する観点から、各種の商品をそろえている。特に、個人旅行、友人・親族訪問が増加していることを受け、より消費の現場に近い活動をする都市の観光局としては、「オペレーター化」することで、ハンブルグへの訪問者が快適に、かつ楽しく過ごせる提案をしていく。


 ただし、VB、ハンブルグ観光公社とも、こうした手法を日本でも展開する、という考えはないという。それは、欧州ではLCCの興隆を背景とした旅行会社を不要とする旅行需要の活性化という事情が大きく作用しており、この動向は日本ではまだ起きていない、と判断しているからだ。そういう意味では、日本でのニーズの高まり、つまり旅行会社が取り込めていない需要の進捗が、観光局の日本市場に対する今後の動向を左右すると、考えられるだろう。