海外旅行市場の再活性化に向けた旅行会社の取り組み−JATA国際会議採録
JATA国際会議2007のパネルディスカッションから、旅行会社の発言を掲載する。業容、特色の異なる近畿日本ツーリスト、エヌオーイー、阪急交通社が、会議全体のテーマとして掲げられた「日本の海外旅行市場の再活性化」に向けた取り組みを語った。会議サブタイトルの「日本のグローバル競争力」も意識し、変化が激しくなる中で、需要獲得に向けて各社が始動している。
▽ 近畿日本ツーリスト常務取締役 越智良典氏
MICEでは自動車業界をはじめ、セールスインセンティブ、周年事業など大きな消費が期待できる。KNTが最も得意とする分野で、例えば8月には、ドバイで2000人規模のインセンティブのほか、世界陸上大阪大会を扱った。来年開催される北京オリンピックも同様に、イベント開催にあわせて業容拡大に注力する。
教育旅行では少子化が悩ましい問題。ただし、一人あたりにかける教育コストが増え、学校単位でも差別化が重要になってくる。修学旅行では「体験」学習がキーワードとなり、「体験」はシニアの短期留学でも有望だ。
ラグジュアリー・マーケットには、ラグゼ銀座マロニエとして富裕層向けの旗艦店を5月に開業。オーダーメード、クルーズやパッケージツアーを含め、ラグゼでシリーズ化をしていく。ラクジュアリートラベルマートに出展し、拡大を図る。
KNTの組織変更で本社はホリデイと航空仕入を統合、店頭販売も再編を図る。ホリデイ、MICE、団体、ラグジュアリー、そしてインターネットを利用するダイナミックパッケージで最大限の集客をはかり、通年で安定した送客をめざす。ただし、各種の仕入環境が悪化し、戦略的に取り組む必要があるため、方面特化も方策の一つ。来年は、今年のスイス方面で成功したチャーター便を組み合わせ、展開していく。
市場開発という観点からも、今年のスイス方面で成功したチャーター便の事例のように、年間でチャーター便を活用したシリーズ展開も必要だ。グローバルスタンダードを意識すると、様々な場面で売り切る力が必要。市場開発の意味もこめ、旅行会社もリスクをとって、市場の需要創造に取り組む。
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▽ エヌオーイー執行役員経営企画室長 橋本肇氏
主力のビジネストラベルでは、ボリュームインセンティブとコミッションが基盤であり、コミッションの7%から5%への削減は影響が大きい。IATAの精算回数変更も大きな出来事だ。日本の商慣習は後払いが主で、旅行会社は資金負担が増加し、キャッシュフローに影響が及ぶ。
市場環境を大きく見渡すと、国際航空運賃協定の適用除外制度の見直し、格安航空会社の上陸など、旅行会社を経由しない旅行が増えることが想定される。ビジネス需要は企業に支えられ、足下は好調だが、ビジネスモデルは明らかに変化していく。
外資系企業を中心にBTMが進んでいるが、日本企業はそれほど進んでいない。(NOEでは)日本版のBTM開発に取り組んでおり、これを進めていく。ある程度の規模がないと、状況はきびしくなることが予想され、M&Aの推進でボリュームの確保にも取り組む。同じ志を持つ企業との統合、提携を進めたい。
レジャーではシニアにターゲットを定め、リピーターを獲得したい。同じ旅行でもレジャーとビジネスでは全く異なる。直販レジャーではM&Aで基盤構築ができ、事業の幅が広がった。
特に団塊世代のリタイアが始まっており、この方々に旅の素晴らしさをしっかりと伝えていく。ビジネストラベルでお付きあいのある方に、退職後も旅のコンサルタントとして提案をしていきたい。ビジネストラベルでは、細部にわたり手配をしており、築いてきた信頼、人間関係を活かしたい。百貨店の外商をイメージした営業で、具体的な導線を作る必要がある。「マイエージェント構想」を描いており、その鍵はインターネット、顧客の組織化、BTMシステムと考えており、ビジネスとレジャーのバランスの取れた拡大を図りたい。
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▽ 阪急交通社取締役常務執行役員 難波江隆一氏
2001年の同時多発以降、この5年で価格から価値重視へ転換してきた。顧客アンケートによると、年齢が高くなるとパッケージ利用率があがる。海外の旅行情報入手は、何らかの形で旅行会社を経由しており、旅行会社に62%が安心を求めている。旅行会社の選ぶ基準は、安心に加え、目的、価格を重視するという。
阪急交通社の「価値競争」は5つの指標で、安心価値、内容に即した価格である価格満足度、高催行価値、旅行動機付け価値(情報発信)、インターネット普及で重要度が増した口コミ価値だ。こうした中で、地方紙41紙を含めたダイレクト・マーケティングを進めている。5つの価値を広告に反映するため、全出発催行保証、土・日の予約受付を広告に明記し、思い立った時に予約できるアピールしている。
昨年、成功した南アフリカへの企画では観光局、航空会社とタイアップし、新聞広告の上段に記事を掲載し、参加率のアップを狙った。2500人を集客し、ゼロからの出発としては上出来の結果であった。
顧客向けの情報誌は、1999年の25万部から現在は350万部まで拡大し、地方版は地域密着型とするなど、市場にあわせた展開も開始した。1日1万4000件を受けるコールセンターや旅行説明会など、直に顧客の意見を聞く機会があり、その声をいかに商品に反映していくかが最大の課題だ。
旅行商品の企画、宣伝、販売まで一貫して一人が担当することで、仕入、広告、サプライヤーとの直接交渉により、広告展開では顧客の声を即座に反映できる。中国の青蔵鉄道を利用する商品では、現地からの情報を活かし「天空列車」の商標登録をとり、販売促進に取り組んだ。また、毎週の営業会議で前週の測定効果、新商品の展開を話し合い、修正が必要なものは翌週には対応している。
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