トップインタビュー:エヌオーイー代表取締役社長 林田建夫氏
中堅企業の生き残りは強みを活かす連携がカギ
「一歩先」を考えて
ジェット・エア・サービス、トーメン子会社のティエムトラベル、新日本トラベルとのM&Aにより、事業の拡大を図っているエヌオーイー。同社が強みとする法人旅行だけでなく、レジャーでも存在感を高めているという姿が、外からの見方だ。社長に就任して約1年となった同社代表取締役社長の林田建夫氏に、現在の業界の環境認識やNOEの方向性などを語ってもらった。(聞き手:弊社代表取締役社長 岡田直樹)
−社長に就任されてから、約1年が経過しました。この1年をどのように思っていますか
林田建夫氏(以下、林田) この1年、これまで以上に大変な時代に入ってきたと改めて実感しているところだ。旅行業界、航空業界の様相も変化してきており、全般的に旅行業経営の舵取りが厳しい時代になってきている。2006年はSARSやテロなど、外的要因による不安など無かったが、今年に入り、コミッション・カットやSAME DAY VOIDなど、旅行業界内でいろいろな変化が起こっている。
弊社の2006年の業績は、売上高は前年比6.7%増の270億6800万円、営業利益は2億1100万円、経常利益は2億5900万円となっている。渡航目的別ではビジネスが10%増、レジャーは前年並みを確保した。2006年の日本人の海外出国者数は0.8%増の1753万人超。海外出国者の総数が伸びなかったが、その中身ではビジネス需要が伸びたといわれており、弊社もその流れを掴むことが出来ただろう。一方で、レジャー需要が減退していると囁かれる通り、確かに勢いは感じられない。その中で、新日本トラベルの統合など、事業面で「選択と集中」を進めながら、前年並みを確保できた。
−この数年、M&Aで拡大している、という印象を受けます。今後の経営方針を教えてください
林田 今後も旅行業界において、淘汰が進んでいくと考えている。生き残りをかけるという意味で、今後もM&Aは策のひとつとして考えていきたい。BSP精算回数の変更など、航空会社との取引環境の変化は、事業基盤がしっかりしているといった自力が無いと厳しい時代に変化している表れだろう。さらに、格安航空会社の登場、IATA運賃の問題、航空会社の事業環境の変化など、それぞれの問題が旅行会社へ与える影響は少なくない。こうした中で、中途半端な事業規模では難しくなってきていると感じている。
互いの会社が強みとするところを合わせることで、スケールメリットを生み出すことができれば、外的環境の変化にも耐えられる事業環境を築くことが出来るのではないだろうか。売上高だけでみれば、500億円程度が目指すべき指標だろう。ただし、薄利多売で売上高を伸ばすことだけに注力しない。大手と同じ土俵で競う考えはない。売上高の中身を精査しながら、強みとする部分、良い部分を伸ばしていくことが求められている。
旅行業に限らず、M&Aでは成功は半分半分といわれており、合併したからといって必ず上向くというものではない。「結婚」と同じように、お互いの会社の呼吸が合い、タイミングや、前向きな思考になれるのであれば、「1+1=2」以上の効果を生む良い結果が期待できる。それ以外にも、自社で企画力を高めること、仕入力を強化することと同時に、各社が協力してコストカットをする形も考えられる。中堅企業が生き残れる形を示す必要があると考えているし、その余地があるとも思っている。さらに、社員の将来を考えれば、現状に危機感を覚えることもあり、旅行会社同士で意見交換や情報交換などを始めていくことも重要だ。M&Aは何が何でもするという訳ではないし、2社、3社、4社の対等合併など、形にこだわるものではない。
−御社が強みとする法人旅行では事業環境も大きく変化しております。その中で新システムを開発されていますが、これまで営業で蓄積されたノウハウとの連携をどのように進めていきますか
林田 新システムは年内の稼動を予定している。この機会を捉え、社内からの様々な要望を実現できるように開発しているところだ。特に現場の意見を取り入れ、良いシステムを作りあげたいと考えている。
法人営業の分野は、航空会社も力を入れてきているが、この流れは止めることが出来ないだろう。マイレージ・サービスが登場したころから現在の状況はある程度、想定されており、旅行会社は単に代理販売する存在から変わっていかなければならない。方向としてはそうだが、日本での商習慣を考えると、直ぐに「手数料を頂戴します」といっても消費者から受け入れられるものでもないだろう。航空会社、旅行会社、法人の三者が互いにメリットある形を目指していきたい。
さらに、法人顧客は団塊世代の退職を控え、若い世代がお客様に変わっていく。その流れの中で、日本企業が旅行会社1社にビジネス渡航を任せていないという実態も変化し、旅行手配や予約から社内精算までを含むトータルサポートを提供していくことも求められていくだろう。大手各社は大規模なシステムを構築しBTMとして取り組んでおり、時代の流れも考えながら、システムとして対応できること、そして顧客に対して利便性の高いサービスを提供できるかが鍵になるだろう。航空会社は毎日、営業に行く小回りができる訳ではなく、「人」に依存する形への対応を図りながら、スピードを上げるシステムも強化していく。
−レジャー需要についても、御社の事業の柱になっていると思います。この分野での展開はどのように進められますか
林田 レジャーでは今後、団塊世代の退職により、この層の需要増加が見込まれている。この方々に提供する旅行は、内容から考え直していく必要があるだろう。例えば、ディナーを大切にしたいという人が多いが、食事をとる雰囲気、食事の内容を良くすることに注力しなければならないだろう。宴会場でツアー参加者が一同に介した食事は、団塊世代にとって物足りなく感じるもので、旅行の満足にはつながらない。価格で左右されるお客様だけでなく、食事をとる場所や雰囲気をはじめ、旅行全体を構成する細かな観点にまで立ち返り、全てを見直すなど、やるべきことは大いに残されている。
私などは団塊世代と同世代で、気持ちは良くわかるので、企画にはやりやすい。この感覚はまた、20代から30代の若者向けの商品を作る上でも重要な示唆を与えてくれた。若者向けの商品は感性、感覚の判断基準など私には分からないことも多いが、こちらは同世代の若い人に任せることで、旅行全体の満足度が高まるだろう。
さらに、この数年で取り組んで行きたい事として、ビジネスで利用されているお客様に、レジャーでも利用していただくことだ。一流企業の法人顧客と取引をしているが、これまで業務渡航には弊社を利用されているお客様が、レジャーでは別の会社を利用することもある。業務渡航で利用され、信頼されているのだから、自信を持ってお客様に積極的な案内をしていくことができるはずだ。これまでもパンフレットをお渡ししてきたが、「新日本トラベル」や「漫遊の旅」を知らない方が多く、頭の片隅にでも覚えていただけるよう努力する必要がある。弊社の商品は一度でも、奥様など大切な方と一緒に旅行をされると、必ずもう一度、ご利用されることが多いと自負している。
また、お客様の都合が良ければ、自宅にお伺いをして旅行の内容を説明したい。デパートの外商のようなイメージだが、ご夫婦が揃っている前で旅行の内容を説明することで、お二人の希望に沿う旅行を提案でき、満足度の高い旅行の実現に繋がるだろう。
−御社の今後の目標、上場の予定についてお教えください
林田 弊社は私の就任前から、「Change」という標語を掲げていた。これに、就任してから「Think」を加えた。つまり、毎日忙しい中でも、自分の仕事を高めていくことを現場で考えてもらう必要がある。それが「Change」にも、結びついてくるだろう。ただ、「考える」といっても「一歩先」であることが重要で、これが自然と変化に結びついていくだろう。
株式公開はこれまでも検討課題としてきたことで、常に目標としていくものだ。弊社ではビジネス、ホールセール事業に加え、漫遊の旅や新日本旅行の直販部門もあるが、これら全体がNOE独自の商品として認知され、事業として成立していくことが条件だろう。このためには、事業基盤を強くしていかなければならない。社会全体の環境が良くなることも条件の一つだ。今年は、創業して47年目となるが、50周年をひとつの区切りとして実現に向けて取り組んでいきたい。
−ありがとうございました
「一歩先」を考えて
ジェット・エア・サービス、トーメン子会社のティエムトラベル、新日本トラベルとのM&Aにより、事業の拡大を図っているエヌオーイー。同社が強みとする法人旅行だけでなく、レジャーでも存在感を高めているという姿が、外からの見方だ。社長に就任して約1年となった同社代表取締役社長の林田建夫氏に、現在の業界の環境認識やNOEの方向性などを語ってもらった。(聞き手:弊社代表取締役社長 岡田直樹)
−社長に就任されてから、約1年が経過しました。この1年をどのように思っていますか
林田建夫氏(以下、林田) この1年、これまで以上に大変な時代に入ってきたと改めて実感しているところだ。旅行業界、航空業界の様相も変化してきており、全般的に旅行業経営の舵取りが厳しい時代になってきている。2006年はSARSやテロなど、外的要因による不安など無かったが、今年に入り、コミッション・カットやSAME DAY VOIDなど、旅行業界内でいろいろな変化が起こっている。
弊社の2006年の業績は、売上高は前年比6.7%増の270億6800万円、営業利益は2億1100万円、経常利益は2億5900万円となっている。渡航目的別ではビジネスが10%増、レジャーは前年並みを確保した。2006年の日本人の海外出国者数は0.8%増の1753万人超。海外出国者の総数が伸びなかったが、その中身ではビジネス需要が伸びたといわれており、弊社もその流れを掴むことが出来ただろう。一方で、レジャー需要が減退していると囁かれる通り、確かに勢いは感じられない。その中で、新日本トラベルの統合など、事業面で「選択と集中」を進めながら、前年並みを確保できた。
−この数年、M&Aで拡大している、という印象を受けます。今後の経営方針を教えてください
林田 今後も旅行業界において、淘汰が進んでいくと考えている。生き残りをかけるという意味で、今後もM&Aは策のひとつとして考えていきたい。BSP精算回数の変更など、航空会社との取引環境の変化は、事業基盤がしっかりしているといった自力が無いと厳しい時代に変化している表れだろう。さらに、格安航空会社の登場、IATA運賃の問題、航空会社の事業環境の変化など、それぞれの問題が旅行会社へ与える影響は少なくない。こうした中で、中途半端な事業規模では難しくなってきていると感じている。
互いの会社が強みとするところを合わせることで、スケールメリットを生み出すことができれば、外的環境の変化にも耐えられる事業環境を築くことが出来るのではないだろうか。売上高だけでみれば、500億円程度が目指すべき指標だろう。ただし、薄利多売で売上高を伸ばすことだけに注力しない。大手と同じ土俵で競う考えはない。売上高の中身を精査しながら、強みとする部分、良い部分を伸ばしていくことが求められている。
旅行業に限らず、M&Aでは成功は半分半分といわれており、合併したからといって必ず上向くというものではない。「結婚」と同じように、お互いの会社の呼吸が合い、タイミングや、前向きな思考になれるのであれば、「1+1=2」以上の効果を生む良い結果が期待できる。それ以外にも、自社で企画力を高めること、仕入力を強化することと同時に、各社が協力してコストカットをする形も考えられる。中堅企業が生き残れる形を示す必要があると考えているし、その余地があるとも思っている。さらに、社員の将来を考えれば、現状に危機感を覚えることもあり、旅行会社同士で意見交換や情報交換などを始めていくことも重要だ。M&Aは何が何でもするという訳ではないし、2社、3社、4社の対等合併など、形にこだわるものではない。
−御社が強みとする法人旅行では事業環境も大きく変化しております。その中で新システムを開発されていますが、これまで営業で蓄積されたノウハウとの連携をどのように進めていきますか
林田 新システムは年内の稼動を予定している。この機会を捉え、社内からの様々な要望を実現できるように開発しているところだ。特に現場の意見を取り入れ、良いシステムを作りあげたいと考えている。
法人営業の分野は、航空会社も力を入れてきているが、この流れは止めることが出来ないだろう。マイレージ・サービスが登場したころから現在の状況はある程度、想定されており、旅行会社は単に代理販売する存在から変わっていかなければならない。方向としてはそうだが、日本での商習慣を考えると、直ぐに「手数料を頂戴します」といっても消費者から受け入れられるものでもないだろう。航空会社、旅行会社、法人の三者が互いにメリットある形を目指していきたい。
さらに、法人顧客は団塊世代の退職を控え、若い世代がお客様に変わっていく。その流れの中で、日本企業が旅行会社1社にビジネス渡航を任せていないという実態も変化し、旅行手配や予約から社内精算までを含むトータルサポートを提供していくことも求められていくだろう。大手各社は大規模なシステムを構築しBTMとして取り組んでおり、時代の流れも考えながら、システムとして対応できること、そして顧客に対して利便性の高いサービスを提供できるかが鍵になるだろう。航空会社は毎日、営業に行く小回りができる訳ではなく、「人」に依存する形への対応を図りながら、スピードを上げるシステムも強化していく。
−レジャー需要についても、御社の事業の柱になっていると思います。この分野での展開はどのように進められますか
林田 レジャーでは今後、団塊世代の退職により、この層の需要増加が見込まれている。この方々に提供する旅行は、内容から考え直していく必要があるだろう。例えば、ディナーを大切にしたいという人が多いが、食事をとる雰囲気、食事の内容を良くすることに注力しなければならないだろう。宴会場でツアー参加者が一同に介した食事は、団塊世代にとって物足りなく感じるもので、旅行の満足にはつながらない。価格で左右されるお客様だけでなく、食事をとる場所や雰囲気をはじめ、旅行全体を構成する細かな観点にまで立ち返り、全てを見直すなど、やるべきことは大いに残されている。
私などは団塊世代と同世代で、気持ちは良くわかるので、企画にはやりやすい。この感覚はまた、20代から30代の若者向けの商品を作る上でも重要な示唆を与えてくれた。若者向けの商品は感性、感覚の判断基準など私には分からないことも多いが、こちらは同世代の若い人に任せることで、旅行全体の満足度が高まるだろう。
さらに、この数年で取り組んで行きたい事として、ビジネスで利用されているお客様に、レジャーでも利用していただくことだ。一流企業の法人顧客と取引をしているが、これまで業務渡航には弊社を利用されているお客様が、レジャーでは別の会社を利用することもある。業務渡航で利用され、信頼されているのだから、自信を持ってお客様に積極的な案内をしていくことができるはずだ。これまでもパンフレットをお渡ししてきたが、「新日本トラベル」や「漫遊の旅」を知らない方が多く、頭の片隅にでも覚えていただけるよう努力する必要がある。弊社の商品は一度でも、奥様など大切な方と一緒に旅行をされると、必ずもう一度、ご利用されることが多いと自負している。
また、お客様の都合が良ければ、自宅にお伺いをして旅行の内容を説明したい。デパートの外商のようなイメージだが、ご夫婦が揃っている前で旅行の内容を説明することで、お二人の希望に沿う旅行を提案でき、満足度の高い旅行の実現に繋がるだろう。
−御社の今後の目標、上場の予定についてお教えください
林田 弊社は私の就任前から、「Change」という標語を掲げていた。これに、就任してから「Think」を加えた。つまり、毎日忙しい中でも、自分の仕事を高めていくことを現場で考えてもらう必要がある。それが「Change」にも、結びついてくるだろう。ただ、「考える」といっても「一歩先」であることが重要で、これが自然と変化に結びついていくだろう。
株式公開はこれまでも検討課題としてきたことで、常に目標としていくものだ。弊社ではビジネス、ホールセール事業に加え、漫遊の旅や新日本旅行の直販部門もあるが、これら全体がNOE独自の商品として認知され、事業として成立していくことが条件だろう。このためには、事業基盤を強くしていかなければならない。社会全体の環境が良くなることも条件の一つだ。今年は、創業して47年目となるが、50周年をひとつの区切りとして実現に向けて取り組んでいきたい。
−ありがとうございました