トップインタビュー:ジェットスターCEO アラン・ジョイス氏
日本市場初のLLCの登場−「継続的な運航こそ重要」
ジェットスター(JQ)が3月26日、初就航した。04年の初就航以来、週1100便を運航するまでに成長したJQは、カンタス・グループが2月に公表した2006年度上半期(2006年7月1日〜12月31日)決算概要によると、税引き前利益が5100万豪ドルと前年同期の約5倍の成長を記録。フルサービス・キャリアが立ち上げたLLCとして成功した初のケースといえる。日本就航にあわせ来日したCEOのアラン・ジョイス氏に、今後の流通、路線展開、市場拡大の取り組みなどを聞いた。
(インタビュー日:3月26日、聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎)
―日本発のロードファクターは
アラン・ジョイス氏(以下、ジョイス) 初便に294人搭乗していただき、その後も90%程度で推移する見込み。1週目であり、日本発の需要が多い。就航当初は日本からの乗客が多くなることは予想していたが。
―日本発とオーストラリア発で価格が違う戦略の意図は
ジョイス 運賃価格は季節性が働いており、旅客需要の動向にも左右される。日本発とオーストラリア発では価格が異なり、現段階はオーストラリアを安くしている。オーストラリア発が安い理由は、オーストラリア発の需要が弱いからだ。一般論としては、できるだけ双方の発地で均整の取れた価格にしたい。
現在のところ、旅客の割合は9割が日本発、オーストラリア発は1割程度を想定している。われわれとしては日本、オーストラリア、それぞれのマーケットが拡大することを望んでいる。このバランスが良くなっていけばと思っており、現在の円/豪ドルの為替相場からすると、オーストラリアから日本への訪問は魅力的な時期だ。
―日本航空(JL)とのコードシェア提携を計画しているが、旅客サービスの対応は
ジョイス コードシェアは、これまでカンタス航空(QF)と国内線、国際線で実施しており、現在までのところ良く運営できている。また、一部のQFでJQのコードを付与しているものもある。
JLとのコードシェアについては、最終確定の段階にある。オーストラリア当局、国土交通省の認可が必要だ。ただし、双方のITシステムが異なり、この点で手続きとしては難しい面がある。全てクリアすることで、提携を始めることができる。
サービス面では、客室乗務員がQFとのコードシェアで、すでに実践している。食事、ソフトドリンク、ブランケットなどを提供するに当たり、乗客がコードシェアの申し込みであるか、あるいはわれわれに予約した旅客が付加サービスを購入したかなど、リスト化したものを客室乗務員が管理し、これに基づいてサービスを提供していく。QFとは昨年11月から実施しており、これまでに大きな問題はない。
―日本での流通施策をどのように展開していくか。一般的に現在、各航空会社はホールセラーなどとの取引をしており、ネットでの流通が一辺倒というわけではない
ジョイス 流通施策としてはネットを活用している、というイメージは強いが、各市場によって異なるのが実情だ。例えば、香港でのジェットスター・アジアが、日本と類似する点があるだろう。香港の人々はネットで検索をするものの、予約をすることはあまりないからだ。また、インドネシアは多くの航空会社が就航するが、旅行会社のネットワークが十分に機能、整備されておらず、航空会社が店舗で販売するという興味深い例もある。つまり流通は国、市場によって異なることであり、適切に機能する流通経路を活用していくことが重要だ。日本では旅行会社、特にホールセラーの販路を活用していきたい。
日本では、子会社の取扱いを含む14社と引き続き関係を維持していくと共に、ジェットスターホリデーズという旅行会社を立ち上げる。このジェットスターホリデーズで、ダイナミックパッケージを提供し、消費者にわれわれの商品、さらに多くの旅行素材を並べ、選んでいただきたい。サイトを利用する予約が増加しなくとも、自社サイトを活用した顧客調査などもできると考えている。
―今後の日本での活動方針は。名古屋路線の就航も控えており、日本発の需要をどのように獲得していく考えか
ジョイス 日本人にとって、オーストラリアは旅行を希望する訪問先として人気があり、ホノルルに次ぐ2位だ(編集部注:JTBレポート2006において、「行きたいデスティネーション」の1位がハワイ、2位がオーストラリア)。ただし、「実際に旅行をする」場合にはトップ10にも入らない。われわれは「実際に行く方策がない」と考えており、ジェットスターは広告展開などでブランドを日本で確立し、新しい機材の快適性をアピールするとともに、さらにキャンペーン展開で「希望」を「現実に結びつける」ことをしていく。つまり、オーストラリアへの訪問を叶えていく、という課題に取り組んでいく。
今回の日本就航に際し、JQとして初となる海外拠点を設立し、片岡氏にリージョナル・マネージャー(支社長)を任命した。特に、日本は複雑な制度、流通経路があり、これを一手に引き受けており、大きな役割を果たしてくれている。
コスト構造として、ローフェアを提供しながら利益を上げ、市場を拡大し、さらに将来に向けて投資することが重要だ。単に低運賃であっても、ビジネスとして持続可能であることが大切だ。多くの市場参入者は、低い運賃を謳って参入するも撤退する例が散見されるが、ジェットスターは、これまで市場を拡大し、継続的に運航することに取り組んでおり、引き続き持続してこうとすることが重要だ。
2008年8月には新機材ボーイング787型機を導入する。カンタス・グループとして45機の購入計画があるが、このうちジェットスターには少なくとも12機が割り当てられる。利益が出れば、機材を増やしていくことが可能だ。オーストラリア発の海外路線には現在6機を利用しており、機材数から見れば就航地、旅客数とも伸びる余地が大きい。方法としては、デスティネーションの多様化を図ることも重要だが、就航地の運航便数を増やしていくことも重要だ。短距離についても、今後機材の導入で拡充をしていく予定だ。
―日本でLCCのビジネス展開で難しい点などはあったか。また、東京への参入の見通しはあるか
ジョイス LCCとして運営していくにはさまざまな手法があり、フルサービス・キャリアと比べ優位な点が多くある。グラウンド・ハンドリング、本社機能の削減、そしてよく知られている話だがQFとJQでは給与体系もまったく異なり、こうした工夫がコスト削減につながっている。さまざまな取引を自動化することで人員を減らすことも、コスト構造を抑えるひとつだ。QFと比べれば、約45%は低い運営ができている。
日本では着陸料が確かに高い。これまでの経験では、輸送力を増やした時には割引率を拡大してもらうといった空港当局とのインセンティブ契約の締結は、利用客数が増加することで空港にもメリットが生まれ、有益だといえる。こうした契約で便数を増やす取り組みにより、全体のコストを下げていく。
デスティネーションの拡大は空港、地域とのパートナーシップがうまくいくかが鍵だ。日本でもどれだけ協力が得られるかが、重要な要素となる。東京は、非常に興味深い市場という認識だ。現在は成田空港の発着枠に制限があり、新しい航空会社が参入する余地はない。将来、QFが持つ枠を譲ってくれる、というのであれば就航する可能性はあるだろう。ただし、QFの成田/シドニー線は好調だとも聞いており、近い将来にこうしたことが発生するとは思っていない。
―日本でもJQはもちろん、LCCが定着していくと見ているか
ジョイス JQはオーストラリアでこれまで3年間、サービスを展開してきた。1年目に500万人が利用し、このうち10%が「飛行機が初めて」という利用者がいた。また、500万人の2割から3割は、これまでよりも多く飛行機に搭乗する機会につながっているという。今年になっても、利用者の5%は、飛行機での旅行が初めてという人がいる。つまり、市場が拡大している、といえるだろう。
オーストラリアを主要な市場として1400万人の搭乗実績を持ちながら、いまだに航空機の利用が初めての人がいる。これは日本市場でも同じことが起きるだろう。日本の旅行市場は大きく、一方でちょっとした変化でも大きなインパクトになっていく可能性を秘めた、興味深い市場だ。これからは、片岡支社長をはじめとする日本チームの活躍が期待されるところだ。
―ありがとうございました。
関連記事
ジェットスター、自社ブランド展開で旅行会社設立、ダイナミックPKG展開へ [掲載日:2007/03/27]
<過去のトップインタビューはこちら>
ジェットスター(JQ)が3月26日、初就航した。04年の初就航以来、週1100便を運航するまでに成長したJQは、カンタス・グループが2月に公表した2006年度上半期(2006年7月1日〜12月31日)決算概要によると、税引き前利益が5100万豪ドルと前年同期の約5倍の成長を記録。フルサービス・キャリアが立ち上げたLLCとして成功した初のケースといえる。日本就航にあわせ来日したCEOのアラン・ジョイス氏に、今後の流通、路線展開、市場拡大の取り組みなどを聞いた。
(インタビュー日:3月26日、聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎)
―日本発のロードファクターは
アラン・ジョイス氏(以下、ジョイス) 初便に294人搭乗していただき、その後も90%程度で推移する見込み。1週目であり、日本発の需要が多い。就航当初は日本からの乗客が多くなることは予想していたが。
―日本発とオーストラリア発で価格が違う戦略の意図は
ジョイス 運賃価格は季節性が働いており、旅客需要の動向にも左右される。日本発とオーストラリア発では価格が異なり、現段階はオーストラリアを安くしている。オーストラリア発が安い理由は、オーストラリア発の需要が弱いからだ。一般論としては、できるだけ双方の発地で均整の取れた価格にしたい。
現在のところ、旅客の割合は9割が日本発、オーストラリア発は1割程度を想定している。われわれとしては日本、オーストラリア、それぞれのマーケットが拡大することを望んでいる。このバランスが良くなっていけばと思っており、現在の円/豪ドルの為替相場からすると、オーストラリアから日本への訪問は魅力的な時期だ。
―日本航空(JL)とのコードシェア提携を計画しているが、旅客サービスの対応は
ジョイス コードシェアは、これまでカンタス航空(QF)と国内線、国際線で実施しており、現在までのところ良く運営できている。また、一部のQFでJQのコードを付与しているものもある。
JLとのコードシェアについては、最終確定の段階にある。オーストラリア当局、国土交通省の認可が必要だ。ただし、双方のITシステムが異なり、この点で手続きとしては難しい面がある。全てクリアすることで、提携を始めることができる。
サービス面では、客室乗務員がQFとのコードシェアで、すでに実践している。食事、ソフトドリンク、ブランケットなどを提供するに当たり、乗客がコードシェアの申し込みであるか、あるいはわれわれに予約した旅客が付加サービスを購入したかなど、リスト化したものを客室乗務員が管理し、これに基づいてサービスを提供していく。QFとは昨年11月から実施しており、これまでに大きな問題はない。
―日本での流通施策をどのように展開していくか。一般的に現在、各航空会社はホールセラーなどとの取引をしており、ネットでの流通が一辺倒というわけではない
ジョイス 流通施策としてはネットを活用している、というイメージは強いが、各市場によって異なるのが実情だ。例えば、香港でのジェットスター・アジアが、日本と類似する点があるだろう。香港の人々はネットで検索をするものの、予約をすることはあまりないからだ。また、インドネシアは多くの航空会社が就航するが、旅行会社のネットワークが十分に機能、整備されておらず、航空会社が店舗で販売するという興味深い例もある。つまり流通は国、市場によって異なることであり、適切に機能する流通経路を活用していくことが重要だ。日本では旅行会社、特にホールセラーの販路を活用していきたい。
日本では、子会社の取扱いを含む14社と引き続き関係を維持していくと共に、ジェットスターホリデーズという旅行会社を立ち上げる。このジェットスターホリデーズで、ダイナミックパッケージを提供し、消費者にわれわれの商品、さらに多くの旅行素材を並べ、選んでいただきたい。サイトを利用する予約が増加しなくとも、自社サイトを活用した顧客調査などもできると考えている。
―今後の日本での活動方針は。名古屋路線の就航も控えており、日本発の需要をどのように獲得していく考えか
ジョイス 日本人にとって、オーストラリアは旅行を希望する訪問先として人気があり、ホノルルに次ぐ2位だ(編集部注:JTBレポート2006において、「行きたいデスティネーション」の1位がハワイ、2位がオーストラリア)。ただし、「実際に旅行をする」場合にはトップ10にも入らない。われわれは「実際に行く方策がない」と考えており、ジェットスターは広告展開などでブランドを日本で確立し、新しい機材の快適性をアピールするとともに、さらにキャンペーン展開で「希望」を「現実に結びつける」ことをしていく。つまり、オーストラリアへの訪問を叶えていく、という課題に取り組んでいく。
今回の日本就航に際し、JQとして初となる海外拠点を設立し、片岡氏にリージョナル・マネージャー(支社長)を任命した。特に、日本は複雑な制度、流通経路があり、これを一手に引き受けており、大きな役割を果たしてくれている。
コスト構造として、ローフェアを提供しながら利益を上げ、市場を拡大し、さらに将来に向けて投資することが重要だ。単に低運賃であっても、ビジネスとして持続可能であることが大切だ。多くの市場参入者は、低い運賃を謳って参入するも撤退する例が散見されるが、ジェットスターは、これまで市場を拡大し、継続的に運航することに取り組んでおり、引き続き持続してこうとすることが重要だ。
2008年8月には新機材ボーイング787型機を導入する。カンタス・グループとして45機の購入計画があるが、このうちジェットスターには少なくとも12機が割り当てられる。利益が出れば、機材を増やしていくことが可能だ。オーストラリア発の海外路線には現在6機を利用しており、機材数から見れば就航地、旅客数とも伸びる余地が大きい。方法としては、デスティネーションの多様化を図ることも重要だが、就航地の運航便数を増やしていくことも重要だ。短距離についても、今後機材の導入で拡充をしていく予定だ。
―日本でLCCのビジネス展開で難しい点などはあったか。また、東京への参入の見通しはあるか
ジョイス LCCとして運営していくにはさまざまな手法があり、フルサービス・キャリアと比べ優位な点が多くある。グラウンド・ハンドリング、本社機能の削減、そしてよく知られている話だがQFとJQでは給与体系もまったく異なり、こうした工夫がコスト削減につながっている。さまざまな取引を自動化することで人員を減らすことも、コスト構造を抑えるひとつだ。QFと比べれば、約45%は低い運営ができている。
日本では着陸料が確かに高い。これまでの経験では、輸送力を増やした時には割引率を拡大してもらうといった空港当局とのインセンティブ契約の締結は、利用客数が増加することで空港にもメリットが生まれ、有益だといえる。こうした契約で便数を増やす取り組みにより、全体のコストを下げていく。
デスティネーションの拡大は空港、地域とのパートナーシップがうまくいくかが鍵だ。日本でもどれだけ協力が得られるかが、重要な要素となる。東京は、非常に興味深い市場という認識だ。現在は成田空港の発着枠に制限があり、新しい航空会社が参入する余地はない。将来、QFが持つ枠を譲ってくれる、というのであれば就航する可能性はあるだろう。ただし、QFの成田/シドニー線は好調だとも聞いており、近い将来にこうしたことが発生するとは思っていない。
―日本でもJQはもちろん、LCCが定着していくと見ているか
ジョイス JQはオーストラリアでこれまで3年間、サービスを展開してきた。1年目に500万人が利用し、このうち10%が「飛行機が初めて」という利用者がいた。また、500万人の2割から3割は、これまでよりも多く飛行機に搭乗する機会につながっているという。今年になっても、利用者の5%は、飛行機での旅行が初めてという人がいる。つまり、市場が拡大している、といえるだろう。
オーストラリアを主要な市場として1400万人の搭乗実績を持ちながら、いまだに航空機の利用が初めての人がいる。これは日本市場でも同じことが起きるだろう。日本の旅行市場は大きく、一方でちょっとした変化でも大きなインパクトになっていく可能性を秘めた、興味深い市場だ。これからは、片岡支社長をはじめとする日本チームの活躍が期待されるところだ。
―ありがとうございました。
関連記事
ジェットスター、自社ブランド展開で旅行会社設立、ダイナミックPKG展開へ [掲載日:2007/03/27]
<過去のトップインタビューはこちら>