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法律豆知識 旅行者による「権利放棄」についての旅行実務と法律的観点

  • 2005年10月29日
 旅行者からの「権利放棄」でトラブルになることは多々ある。一見、単純そうであるが、法的観点から検討すると、いろいろな問題点が浮かび上がる。今回は、この旅行者からの権利放棄について考えてみよう。

▽旅行者による「権利放棄」

 パックツアー中に、旅行者が自らの意思でツアーから離脱し、自由行動をとるケースは意外に多い。いわゆる「権利放棄」で、旅行業者としては、旅行代金の減額、あるいは清算の必要がないのは当然である。が、この点以外でも旅行者とトラブルになることも多い。
 良くあるケースは、旅行業者が権利放棄を拒絶することによるトラブルである。簡単な答えは、旅行業者は原則として権利放棄を拒絶することは出来ない。
 こうしたトラブルは、現地添乗員などとの間で発生することが多い。土産物店からのキックバックが受けられないなど、自分たち側の事情があるからだろう。また、格安ツアーで、キックバックを織り込んで代金を組んでいることから、権利放棄されては損になるという場合もあるだろう。
 キックバックが受け取れない、と言ってしまったら身も蓋もないので、「安全が確保できないから」という理由を挙げることが多い。しかし、安全かどうかは旅行者自身が判断することで、現実に危険が切迫しているという特殊な事情がない限り、旅行業者としては権利放棄を拒絶できないのである。

▽危険情報の提供義務に注意

 「安全が確保できないから」という理由で拒絶出来ないことは上に述べたとおりであるが、旅行者が権利放棄する時でも、危険情報の提供は旅行業者の義務であることは忘れないで欲しい。
 ツアーからの離脱を申出られた場合、本当に危険であるならば、どのように危険か、業者として確保している情報は旅行者に提供する必要がある。その危険情報を受けていれば離脱を断念し、あるいは、危険回避が出来たはずなのに、そのチャンスを失って生命、身体、財産に損害を受けた、となると厄介で、旅行業者に責任問題が生じる。
 勿論この時に提供するべき危険情報は、離脱する旅行者のため、特別に収集する必要はない。当該パックツアーを実施するために必要として確保している情報から提供すれば十分である。
 しかし、もともとそのパックツアーの安全確保のために必要な情報の収集が不十分なために必要な安全情報を提供できず、その結果、旅行者が判断を誤り、生命、身体、財産に損害を受けると、ここでも旅行業者の責任が発生することがあり得る。旅行業者は、危険情報を常に的確に収集しておかなければならないことが、法律的な観点から判っていただけることだろう。

▽権利放棄できない旨の特約の効力

 格安ツアーなのであらかじめ権利放棄は出来無いという特約付きで旅行契約を締結した場合、上記のようなケースが起こりうるのだろうか。
 旅行者がその理由を理解して納得した場合、契約自由の原則から、かかる特約は有効である。ただ、それでも現地で強引に旅行者が離脱した場合、キックバック分を取消料や損害賠償として請求できるかは問題が残る。
 離脱は、旅行開始後の旅行者による部分的な契約解除である。旅行開始後の旅行者による契約解除は約款上、その別表第一により、「旅行代金の100%以内」とある。つまり、サービスを受けなかった分の旅行代金が没収されるだけで、それ以上を請求できないのである。バックマージンが旅行代金の範囲外であることは明らかなので、その分を取消料として請求することは出来ないのだ。さらに、キックバックは取引社会ではイレギュラーなものとして保護の程度は低く、損害賠償としてもその請求は困難であろう。
 結局、権利放棄できない旨の特約を設けても、旅行業者がバックマージン分を確保するのは極めて困難である。

▽特別補償の留意点

 権利放棄に関しては、特別補償規定の存在も忘れないでほしい。特別補償規定では、事前に旅行業者あて、離脱及び復帰の予定日時を届け出ておけば、特別補償の対象になるが、事前届けがないと対象外になると明記されている(特別補償規定第2条2項)。
 このように、規定上は「事前届け」が必要とあるだけなので、ここではどのくらい「事前」であればいいかが問題になるだろう。
 規定上は、旅行開始前とは書かれていない。また、添乗員自身は旅行業者の履行補助者であるから、旅行開始後、添乗員に届け出ても旅行業者に届け出たことになる。さらに、事前というだけでは、直前でも事前ということになる。実際には、無断離脱とか事後の届出の場合以外は、特別補償の対象と考えざるを得ないであろう。

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執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]

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