法律豆知識、バリ島の連続爆発事件(その2)、具体的な対応について

  • 2005年10月7日
 今回のバリ島の爆発事件は、旅行関係者に多くの課題を提供したといえよう。バリ島は日本人にとって、人気の旅行目的地であるし、リピーターが多いことも特徴である。それ故、各界で様々な検討と対策がなされているようであるが、本コーナーでも、さらに様々な角度から検討を加えたいと思っている。

▽手配旅行への変更について
 今回の爆発事件に限らず、天災地変、戦乱、暴動、テロといった事態の発生で、旅行業者が旅行の出発を取りやめようとしても、旅行者自身が出発を強く希望するという事態もありうる。今回も、爆発事件の翌日、事件直後の混乱の中で、このような事態が見受けられた。
 このようなケースの場合、旅行業者の対策として、企画旅行契約から手配旅行契約に切り替えさた上で出発させるという例が見受けられる。確かに、手配旅行であれば、特別補償の対象にならないので、旅行業者の責任を回避する一方法なのであろう。しかし、手配旅行に切り替えることについては、難しい法律問題が内在する。
 手配旅行というためには、内訳を明示しなければならない(本コーナー第39回参照)。従って、内訳の明示のないまま、企画旅行契約を手配旅行契約に切り替えると一方的に宣言しても、内訳の明示のない限り、法律上は手内旅行に切り替わることはない。旅行者が、切り替えに同意しても同様である。
 有効な変更をするには、企画旅行契約を解除したうえ、新規に手配旅行契約を締結しなおす方法と、解除せずに、更新契約により手配旅行に切り替える方法とがありうる(但し、いずれも、新たな手配契約では内訳を明示せざるを得ないのである)。
 ただ、実際としては、混乱している中で急に内訳を明示するのは事実上極めて困難であろう。内訳を明示できなければ、あくまでも企画旅行のままということで、対策を考えなければならないことになる。

▽テロが起きたときの選択肢
 ところで、テロ等が起きたとき、旅行業者としては、その後のツアーの出発につき、中止するか、実施するか、目的地を変更するかの判断を迫られることになる。
 強行したばあい、再度のテロにより旅行者に犠牲者が出ると大変である。現地の危機情報は、旅行業者が旅行者より遙かに豊かに持っているはずである。それ故、ひとたび犠牲者が出れば、危険な旅行を強行したことにっよる損害賠償の問題が生じることになる。
 次に、契約を解除した場合、本年4月の改正以降は、解除による費用は旅行者に負担させることは出来るようになったとはいえ(約款18条3項)、旅行代金は旅行者に返還しなければならないので、営業的損失は大きい。
 とはいえ、旅行契約の変更をすることも事実上困難である。多数の観光地の一部なら変更も可能だとしても、主要な観光地であれば、事実所不可能であろう。仮に目的地を変更できたとしても、それは原則として重要な変更になるので、旅行者は、取消料無く契約を解除できる(約款16条2項1号)。
 となれば、旅行業者が、ツアーを実施するという方向に傾くことは予想せざるを得ない。

▽旅行を実施するに当たっての注意点
 最後に、ツアーを実施するにあたっての、旅行業者の注意点を検討してみよう。この場合、旅行業者がすべきことは、一にも二にも、現地の情報を旅行者に可能な限り詳細に、かつ迅速に伝えることである。
 旅行者に十分な現地情報を提供し、それを前提に、旅行者自身に旅行に参加するか否かの判断を自らしてもらうということが肝要なのである。
 ここでの情報は、外務省の渡航情報(危険情報)だけでは足りない。旅行業者自身による、独自の情報収集努力が必要である。今回のバリ事件の場合、JATAが現地の治安情勢に関する調査団を派遣し、また旅行業者が旅程内に利用するホテルやレストランの現地調査をするなどの努力をしているが、これらは極めて望ましい方向であろう。そして、ここで重要なのは、その成果を旅行者に的確に開示する事である。
 ただ、どんなに詳細な情報を開示しても、犠牲者が出れば、旅行業者が完全に免責されるというのは困難であるということは忘れないで欲しい。とはいえ、情報が不十分であれば、それにより旅行者が旅行に参加するか否かの正確な判断が出来なかったということになり、それだけで旅行業者が責任を問われることもあり得る(本コーナーの第29回では、米国テロ発生直後の危険情報を巡るケースで、旅行業者による情報開示が不十分なことによって、旅行業者が損害賠償責任を負わされたケースを紹介している。参考にして欲しい)。
 やはり何よりも重要なのは、旅行者に対する情報開示である。今後の旅行業界の発展のためにも、情報収集の努力とそれの的確な開示には、最大限の努力をして欲しいものである。