HX、日本市場を本格開拓「2年後にアジア第2位へ」 日本人客は2年間で倍増、旅行会社との連携強化
科学を「付加価値」ではなく旅行体験の中核に
HXが競合との差別化として強調するのが科学・教育だ。
HXは船内にサイエンスセンターを設け、科学者や専門家から訪問地について学ぶ機会を提供している。また、旅行者自身が研究データの収集に参加するCitizen Scienceにも取り組む。
Chief ScientistのVerena Meraldi氏は、旅行者が撮影したクジラの写真などを研究に活用するHappywhaleを具体例として紹介した。
インタビューでは、そのデータが実際の保全活動につながった例についても説明。Meraldi氏によると、Happywhaleなどで蓄積されたデータは、南極域でのクジラの状況把握に活用され、船とクジラの衝突リスクを抑えるための減速措置にもつながっているという。また北極では、有害藻類ブルームを監視する研究を支援し、水産物に依存する地域社会への警告にも役立てているという。
2025-26年の南極シーズンには、HXは研究活動に1801泊分の「guest scientist cruise nights」を提供。Citizen ScienceではHappywhaleへの投稿1111件、eBirdのチェックリスト2250件などの実績があったとしている。また、タスマニア大学と共同開発した南極学習プログラムには2307人が参加し、学習時間は合計4614時間を超えた。
南極観光はどこまで増やせるのか
一方、南極旅行市場の成長に伴い、環境への負荷をどう抑えるかという問題は避けられない。
IAATOによると、2025-26シーズンの上陸客は8万5195人で、前年の8万455人から約6%増加した。今後の旅行者数についてMeraldi氏は、船腹量という意味では「すでにピークに近い」との見方を示した。各社が極地で持続的に運航できる船をすでに投入しており、新たな船を大量に追加するより、古い船を環境効率の高い新しい船へ置き換える動きが中心になるとみる。
HX Antarctic AmbassadorのTudor Morgan氏は、単純に旅行者数を制限することよりも「どのように運航するか」が重要だと指摘。運航手順や環境面の取り組み、訪問目的などを含め、責任ある観光を実現することが重要との考えを示した。
IAATOも南極観光について、加盟事業者が計画する活動による南極環境への影響を「minor or transitory(軽微または一時的)」なものにとどめることを原則としている。
市場拡大の鍵握る旅行会社
日本で南極旅行を拡大するうえでは課題もある。Zou氏は、単一の要因ではなく、認知度、旅行の複雑さ、心理的なアクセスの難しさなどが重なっていると分析する。
日本はクルーズ旅行そのものについては成熟した市場だが、エクスペディション・クルーズの認知度にはまだ伸びしろがある。そのため旅行会社の商品知識や説明力、販売への自信を高めることが重要になるとの考えだ。
さらに、円安や世界各地の紛争など外部環境も無関係ではない。Rainer氏は、紛争による燃料価格の上昇は、燃料費の比重が大きいクルーズに影響すると説明。出発港までの航空アクセスにも依存するため、航空運賃への影響も受ける。
加えて、旅行は消費者にとって裁量的な支出であり、経済環境が厳しくなれば削減されやすいとの認識を示した。
それでもHXが日本で高い成長目標を掲げる背景には、日本人の海外旅行経験の蓄積に加え、既存の旅行会社との販売網がある。日本販売の9割以上をBtoBが占めるHXにとって、「日本をアジア第2位市場へ」という目標の実現は、旅行会社が南極という高額かつ説明を要する商品をどこまで新たな顧客に提案できるかにもかかっている。
南極を入口にエクスペディション・クルーズの裾野を広げ、その先に北極、アラスカ、ガラパゴスへと需要をつなげられるか。HXの日本戦略は、旅行会社にとっても新たな高付加価値旅行市場を開拓できるかを問う取り組みになりそうだ。
取材協力:インターナショナル・クルーズ・マーケティング株式会社

