規制とオープンマインド-ベルトラ創業者 荒木篤実氏
世の中にはさまざまな規制がある。規制は何のためにあるかといえば、それは何かを守るため、というのが一般的な答えであろう。表向きは国民のため、といいつつ、その実は一部の利害関係者のため、である制度は結構多い。農業でいえば、令和の米騒動も、また自動車産業でいえば、先進国とは思えない高額通行料金が長く続く高速道路や、更新期間が短くかつ厳しすぎる車検制度など、枚挙にいとまがない。これらはすべて、需要者の便益よりも、供給者の利益を優先させたのである。結果、割を食うのが消費者となり、それはブーメランとなって国全体の経済衰退へとつながる。
特定の官民が癒着した結果、その産業が世界競争から取り残され衰退していく様は、まさにいま我が国の農業や自動車産業がおかれた状況そのものでもある。これこそ、間違った規制が、本来あるまじき弊害をもたらすことを如実に物語っているといえるだろう。
EU各国は、国としては独立しているが、経済圏としては実にまるで1つの国家のようだ。それはアメリカが各州の自治のもとに合衆国という選択をしたのとほぼ同じである。そもそもイギリスから独立してできたアメリカであるから、その制度を欧州がアメリカから逆輸入した、つまり出戻りの制度と考えると興味深い。
欧州各国を往来していると、陸路であれ空路であれ、ほぼ外国にいく、という意識はほとんどない。陸路なら知らないうちに国境を超え、空路でもEU経済圏内(正確にはシェンゲン協定圏内)ならば、簡易な身分証確認だけである。もちろん通貨も同じだから、人々は普通に週末ごとに国境を超えて活動する。人が動く時、かならずお金も動く。かくして地域経済が活性化する。
そのよい例の1つがルクセンブルクである。この国は国土が狭く人口も極小。資源と呼べるものもなかったため、金融立国となる道をえらび、ほぼあらゆる国に門戸を開放した。結果、世界でも有数のプロのための金融センターとして潤っている。1人あたりGDPが長年ずっと世界一なのもこの実態が根拠となっている。私はこの状況を10年前に初めて目にした時、欧州のシンガポールであると表現した。持たざるものは強い。
そのおかげか、この国では、公共交通機関は住民・旅行者問わず誰でも無料である。国庫がしっかりと税金で潤っていることもあるが、乗車時の現金でのやりとりが時間の無駄だからであろう。もちろん、都市部の渋滞を緩和するために、トラムを空港から中央駅まで開通させ、結果自家用車の利用を減らし、渋滞緩和をとの思いもあっただろう。が、規制するより、選択肢を増やし、国民生活をよくするという発想が先にあるように思えるのだ。
もう1つ、ルクセンブルクの国家施策に、燃料税にEU最低税率を適用というのがある。特に国境沿いの幹線道路に、ガソリンスタンド(GS)が林立する様は圧巻である。そのすぐ隣には週末でも営業中のスーパーが数多くあり、隣国のドイツ、フランス、ベルギー、オランダの各国消費者が車で大挙してやってくる。つまりGSが大量集客マシンとなっている。誰が最初にこの仕掛けを考えたのだろうと思うと、どうして我が国の政府にはそのような商魂たくましい人がいなかったのだろうかと悔やまれる。
日本で、これらと同じような施策ができるだろうか、ふとそうした思いが頭をよぎった。東京、京都、大阪などは、もはや日本とは思えないほど、公共交通機関で戸惑う外国人と、それに迷惑千万な顔をする日本人でカオスになっている。一極集中を避け、人が少ないところにどう人を誘導できるか。ミシュランをはじめ、そのヒントは欧州にいくらでもある。外国人規制議論が盛んなようだが、表面的な発想で、同じ失敗の轍を踏まないようにしたい。
パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。ベンチャー経営とITマーケティングが専門。ITを道具に企業成長の本質を追求する投資家兼実業家。