【Founder’s Eye】観光再起動-変化する経営者たちの選択

仕事柄、数多くの旅行会社経営者とお会いする中で、最近とくに「マインドセットの変化」を感じる場面が増えてきました。
まず、比較的若く社歴の浅い経営者に中長期の目標を尋ねると、IPOや事業譲渡といったエグジットを前提とせず、時間をかけてでも理想を実現したいと語る方が少なくありません。資金調達も、VCではなく自社のリピーターなど「応援してくれる人」からの出資に限定したい、あるいは銀行借入を主な手段とする傾向も見られます。背景にあるのは、中長期にわたる理念重視の経営を目指すうえで、外部投資家からの短期的なリターン圧力を避けたいという意識です。また、「社員や関係者に対して自らが責任を持つ」というスタンスから、経営判断を自らの意思で貫ける体制を重視している姿勢が感じられます。
チーム体制にも柔軟さが見られます。正社員に限らず、業務委託やフリーランスの活用、他社との協業に前向きで、共通しているのは「関わる人々には収入も余暇も豊かであってほしい」という哲学。そして、それを実現できる高収益な事業に集中するという姿勢です。また、自身が実際に体験した旅を勧めるという誠実さ、従来の旅行会社の枠に捉われない柔軟性が際立ちます。
一方で、従来型の旅行会社の経営者からは「原点に戻る」という声も聞かれます。具体的には、オンライン予約が苦手な高齢者や、団体旅行を希望する顧客、信頼できる担当者と旅を相談したい層を対象に、対面や電話を通じた丁寧な対応に力を入れています。OTAの台頭や大手旅行会社のカウンターの減少は、むしろ追い風だと捉える方も少なくありません。
当然ながら、ビジネスである以上、安売りはせず、適正な手数料や利益を得ることも徹底されています。こうした会社では、新規顧客の多くが既存客からの紹介で成り立っている点も印象的です。
IPOを目指す起業家や、リアルとオンラインのハイブリッドを模索する経営者ももちろん存在しますが、コロナ禍や国際情勢の影響を経て、旅行業界の経営スタイルや価値観は一層多様化していると感じます。
その変化は事業承継にも表れています。60代以上のオーナー経営者が多い中、従来の親族や役員・社員への承継に加え、複数社による将来的な合併構想、社員の独立支援、大手企業への事業譲渡など、現実との折り合いをつけつつ、前向きな承継が進められています。
そして本稿を書くにあたって筆者の脳裏に浮かんだ各社に共通していたのは、社歴も規模も事業内容も異なるにもかかわらず、「業績が好調で、経営者が元気」であるということ。多くの経営者が業界内外の人との交流を積極的に行い、旅行業にとどまらない多角的な事業展開によってリスク分散を図るなど、心身のバランスを保ちながら前向きに経営を続けている様子が印象的です。
その姿は、観光産業が静かに、しかし確実に新たなフェーズへと進んでいることを物語っているように思います。
㈱エフネスを1990年に創業、2023年に一部の事業を上場会社へ譲渡、現在は同社の創業者・オーナーとして後方支援の傍ら企業・団体の役員、顧問を務める。
㈱アイユーアール・コーポレーション代表取締役/インターナショナルホスピタリティコネクションズ㈱取締役会長/一般社団法人 新観光創造連合会 (TIFS)代表理事・会長
その他複数の企業・団体に顧問として関与