観光活性化フォーラム
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観光先進国におけるオーバーツーリズムやサステナビリティの現在地、英国政観トップインタビュー

  • 2024年12月4日

 英国政府観光庁(VB)はこのほどインドでアジア・中東向けの商談会を実施。トラベルビジョンは会場でVB CEOのパトリシア・イェーツ氏にインタビューする機会を得た。オーバーツーリズムやサステナビリティ、生成AIなど世界の旅行観光産業が直面する様々な課題やトレンドに対して観光先進国である英国がどのように対峙しようとしているのか、話を聞いた。


VB CEOのパトリシア・イェーツ氏
-インドでの商談会開催ですが、対面形式の商談会にどのような意義を見ているでしょうか

VB CEOのパトリシア・イェーツ氏(以下、敬称略) コロナ前を思い返すと、当時は旅行予約のオンライン化がますます進み伝統的旅行業界は廃れていく運命という見方が大なり小なりあったのは事実だろう。しかし、コロナ禍で起きたのは旅行業界が提供する安心安全という価値に対する再評価で、現在も需要は非常に大きい。我々としてもBtoBの活動をトーンダウンするのではなく、むしろ強化している。

 今回のような商談会の意義のひとつは地方分散だ。ロンドンは世界的にも認知度が高いが、全体の約半数がロンドンに留まり、国中に存在する価値ある他の場所にまで足を伸ばしてもらえていない。英国にはウェールズやスコットランド、カンブリアの田園地帯などバラエティに富んだ素晴らしい体験が揃っている。しかも英国は小さな国であるため、ロンドンからたった数時間の鉄道移動でもそうした場所に赴くことができる。商談会は、そうした体験を一度に知ることができる貴重な機会だ。

-地方分散の話が出ましたが、オーバーツーリズムが世界各国で問題になっています

イェーツ 実は英国のインバウンド市場は好調なのだが国内旅行は軟調で、人気旅行先のピークシーズンでも今年はそれほど混雑していない。

 VBでは現在、リジェネラティブツーリズム(再生型観光)を推進している。主要観光地を離れてよりオーセンティックな体験をしてもらい、それが地域コミュニティの成長につながる観光だ。地元のパブに行って郷土料理を食べて住民と交流し、それによって訪問先の店舗やレストラン、ホテルが潤い、地域全体が経済的にも文化的にも観光の意義を感じられる。そしてまたそれにより雇用が生まれ、期間雇用が通年雇用に変わり、観光で働こうというモチベーションも向上する。これこそがリジェネラティブだ。

-観光の持続可能性についてはどのようにお考えでしょうか

イェーツ 公共交通機関の利用を促進したり、ホテルの使い捨てプラスチックを削減したりといった取り組みはもちろんのこと、持続可能なプロダクトを作り、旅行者に持続可能な選択を求めて、より持続可能なデスティネーションに旅行者が集まるようにするという、こちらもリジェネラティブな取り組みが必要になる。

 旅行者を対象に実施された調査では、より持続可能な選択肢を(その費用を負担してでも)選びたいと答える割合と、実際の消費行動として選んでいる割合にはまだ乖離がある。しかし、現時点で需要が十分に見えていないからといって業界が今進んでいる道が間違っているわけではない。我々が協力して取り組んでいるのは、未来の顧客に対して自分たちをふさわしい存在へと引き上げる作業であり、間違いなく我々がしなければならないことだ。

 そしてその際には高い信頼性を示していくことが重要だ。信頼に足るオーセンティックな取り組みであることがどう伝わるか、どのようにリジェネラティブな選択をしてもらうか。その意味で、旅行業界から消費者に正しいメッセージが伝わることも重視している。

-生成AIが高い注目を集めていますが、VBとしてのスタンスをお聞かせください

イェーツ 私は大いに期待している。きっと大きな力を与えてくれるはずだ。

 もちろん不安視する気持ちもわかる。慎重に、一定の枠組みの範囲内で利用する必要はあるだろう。しかし、例えばAmazonの利用中におすすめ商品が出てきたとして、誰もそれがどのように表示されているかは気にせず単にサービスとして受け入れているだろう。AIはすでに生活に浸透しはじめていて、そのトライ&エラーのコンセプトも受け入れられているのだ。

 VBとしても、どのようなことができるのかを探りはじめている。まずは組織全体ではなく限られた範囲でデータ分析に活用してみているところだ。予算を投下しているチャンネルが正しいか、適切なオーディエンスにアプローチできているかといった問題について、AIは極めて迅速にデータを分析する術を与えてくれ、結果として我々の活動の効率化を助けてくれる。

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