「令和的非日常」とは、JTBコミュニケーションデザインによる調査から見るZ世代の旅への価値観

 JTBコミュニケーションデザインは、9月下旬のツーリズムEXPOジャパン内のセミナーで、同社と伊藤忠ファッションシステムによる「Z世代の旅」に関する共同研究レポートから、『Z世代が旅に求める「令和的非日常」とは』と題し発表を行った。

 冒頭で同社は、Z世代に直目・調査することとなった背景として、Z世代の消費自己裁量権獲得時期がコロナ禍と重なっていたことを挙げた。その後の生涯の消費志向にも影響があると考えられる消費自己裁量権獲得時期がコロナ禍だったZ世代では、様々な制限下で旅の経験が豊富でない場合がほとんど。本調査では、今後の消費を牽引するZ世代の新しい旅の形を明らかにすべく、ネット調査やインタビューを実施。主に20歳~27歳をターゲットにまとめたものだ。

令和的非日常=快放

 消費自己裁量権獲得時期が特殊な環境下だったZ世代だが、「旅行に対するイメージ」は昔と変わりはない。同質問に関するインターネット調査では、「非日常を味わうもの」(45.0%)がトップ。比較として実施したY世代(26-36歳)でも同回答がトップスコアだった。

 一方で、「非日常」が意味する内容は時代により少々異なるようで、Z世代の非日常のキーワードは「快放」。心地よく解き放たれることを表現した造語だが、デジタル化により他者といつでも・どこでも繋っている状態のZ世代では、他者に気を遣うことなく自分らしくあれる、心理的に「快放されるひととき」を得たいとの傾向が。調査結果では、Y世代と比較しZ世代の方が「自分と他人を比較してしまうことが多い」との結果が出ており、人間関係や日々のタスクに疲れたとの声が多く聞かれたという。

 では、実際にどのような体験が"快放"体験となるのか。そのポイントとなるのは①私的"特別"な空間、②疑似日常体験、③つながりをOFFに、④好きに浸る、⑤思い出はお守り、の5点。

 私的"特別"な空間では、物理的距離や移動時間は関係なく、仮に日常から近い場所にいたとしても、料理だけでなくインテリアなども楽しめるレストランなど、いかに日常を忘れられる、非日常感の演出が重要となる。

 疑似日常体験は、旅先の日常を過ごすこと。その土地ごとの日常に触れることは、自身にとっては非日常に繋がる体験となるため、必ずしも有名な観光地を巡ることだけが旅行とは限らない。例え短期間の旅行だとしても、土地そのままの姿を見てみたいというニーズが高まっている。

 3点目の「つながりをOFFに」に関して、日常の中でもスマホから離れたいと思うことも多いZ世代では、旅先では旅を言い訳に意識的に日頃の人間関係や情報を一時的に遮断することが重要視されている。また、旅の同行者も気を遣わなくて済む相手を厳選したいという欲求が強いという。

 続いて、好きに浸るに関して。今回の調査では、「日常においても1人で好きなことに向き合っている時間が1番自分らしい時間」との回答が多かった。近年注目を浴びる「推し活旅行」もその一例で、没頭できることを目的に旅行をしたいとの意識が強い。

 「思い出はお守りに」は、旅先の写真などの用途が、これまでの所謂インスタ映えといった承認欲求を満たすものではなくなったようで、SNSにより他人との比較で自信を無くしたり不安感を抱くZ世代では、非日常の旅先で過ごした「自分らしい快い時間」を振り返ることで、自信のなさや不安感とのバランスを取るという。

主体的に行動する層にアプローチし、ボリュームゾーンを動かすべし

 心理的快放を求めるZ世代と言えど、その価値観は多種多様。本調査では、日常生活でのライフスタイルの価値観と旅行スタイルへの価値観、それぞれを49の質問から同じ価値観を持つグループとして分類。セミナーでは、それぞれの旅行スタイルを軸に、旅に対して主体的に行動する層を積極的にコミュニケーションすべきグループと位置づけ、各グループが志向する旅の傾向についてまとめた。

 「アクティブ好奇心旅」グループは旅の目的を明確に持っており、その達成を軸にアクティブに過ごし新たな発見や学びを得ることを楽しむ。新しい経験をするために自己投資として海外に一人旅を行うことも厭わない。このグループはライフスタイルでも明確な目標をもとにチャレンジを続けており、情報収集にも積極的だ。

 「マイペースリフレッシュ旅」グループはリフレッシュ・リラックスを最優先に、背伸びはせず好きなもの・ことを追求する。ライフスタイルでは時間やお金の使い方にメリハリをつけており、自分にとっての心地よさを実現していく傾向にある。

 以上の2つのグループが主体的に行動する層だが、一番のボリュームゾーンは「おまかせ旅」グループとなっており、他人からの誘いによって行動するこのグループを動かすために「アクティブ好奇心旅」、「マイペースリフレッシュ旅」に訴求することが重要となる。

 また、各グループ毎で「旅先選定の参考になるメディア」の回答も異なっており、アクティブ好奇心旅の上位回答はテレビCM・番組(33.0%)、Instagram(29.7%)、YouTube(26.3%)だったのに対し、マイペースリフレッシュ旅はInstagram(40.9%)、テレビCM・番組(34.9%)、旅行ガイド(29.3%)との結果になった。

 ただ、いずれも答え合わせのため必ず他の情報による比較検討も行うようで、具体的には、公式サイトの確認やgoogleの口コミをスクリーニングすることで最終的な判断を行うといった行動が見られた。