スポーツ・文化×観光の課題は?「高付加価値」ツアー造成のポイントは?シンポジウムや4省庁連携セミナーで議論
高付加価値ツアーはマネタイズ・持続性が課題
観光業以外のステークホルダーとしっかりとしたコミュニケーションを
4省庁連携セミナー「地域活性化・まちづくりに寄与する高付加価値ツーリズムとは」
各ステークホルダーの価値向上が重要、インバウンドは日本人に「会いに」来る
4省庁連携セミナーではまず、モデレーターであるJTB総合研究所主席研究員の山下真輝氏がパネリストに対し、「高付加価値化」の意味を質問した。
これに対し、「海島遊民くらぶ」のブランドで伊勢志摩でエコツアーを実施するオズ代表取締役の江崎氏は、「お客様に付加価値が生まれることは必要だが、お客様自身『地域にとって自分たちの旅行はプラスになっているか』という意識を持つ人が増えてきた」と現状を説明。海島遊民くらぶではワカメの収穫体験をはじめ地元の人々と協力したエコツアーを実施しているが、「連携する先は漁業者や地域のコミュニティで観光に携わっていない人が多いので、観光により良いことが起きないと続けていけない」とし、「連携者の価値が増えることが付加価値が増えたということになるし、増えた価値が効果を出して初めて高いという文字がつくのでは」との考えを述べた。
ひなたMIYAZAKI武道ツーリズム推進協議会会長で、自身も剣道の有段者としてフランスなどで普及活動をおこなう多田竜三氏は、武道ツーリズムを「日本に来て体験して地域にお金を落とすことだけでなく、武道精神を正しく学ぶことを目的に、人と地域をを結び人生を楽しむ旅」であると定義。「殺傷能力が高い武道ほど、指導者と生徒間の信頼関係が重要であり、そのために礼儀が必要」であるとしたうえで「教育的な武道と利益追求の観光は同じ方向に行くのは難しいかもしれないが、双方の歩み寄りが必要」と話した。
高付加価値化については「長期に渡り人と人のつながりを生む環境を作ること」と定義。「武道ツーリズムの肝は地域に根付く武道道場が中心」と語り、武道ツーリズムの参加者が日ごろの成果を示し、先生と交流するプラットフォームの場として位置づけて人々の間に繋がりを生むことが重要とした。
国指定名勝の料亭旅館「柳川藩主立花邸 御花」の代表取締役社長の立花千月香氏は、コロナ禍で「御花」のあり方を見直したことを紹介。コロナ前は柳川の川下りと食事を楽しむ「滞在3時間程度の通過型の観光地」だったが、コロナで客足が途絶えたことを契機に「ここにしかない本質的な価値を提供する文化観光にかじを切った」という。具体的には宿泊しなければ体験できない川下りでの朝食プランや舟を使った花火や月見などのプランを新設した。
さらに立花氏は「100年後も御花があり続けるためには御花が目的地になる必要がある」との考えのもと、文化財保護も考えてあえて入館料をあげたことを紹介。「食事だけを求めるお客様でなく『払ってでも来たい』お客様しか来なくなり、お客様の満足度が高まった」だけでなく、スタッフのロイヤリティとモチベーションアップにも繋がったという。そのうえで立花氏は「そこに本当の価値があるということに気づくかどうか、それをどう皆に伝えられるか」が重要と説明。「新しいものでなくブラッシュアップするだけでも大きくなれる」と話した。
鹿児島県でインバウンド観光を中心に文化観光開発コンサルティングを実施する合同会社GOTOKU代表社員のアレキサンダー・ジョエル・ブラッドショー氏は「場や人に対するアクセスが高付加価値」と説明。通常では訪れられない場所や会えない人、できない体験などがポイントであることに加え、「観光業で勘違いされているのは、インバウンドは観光地や歴史的建造物を見に来るのではなく、日本人に会いに来ていることを忘れないことが重要」と強く訴えた。さらに、これまでのコンサルティングの経験をもとに「価値観を(旅行者に)どう説明し、感じてもらえるのかの見せ方が重要。感動させる仕組みがないと響かない」とも話した。