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オンライントラベル業界の今年のキーワードは?AI、ダイバーシティにサステナビリティ-WiT Japan2023

国内OTAのセッション

 旅行テクノロジー業界の国際会議「WiT JAPAN & North Asia 2023」が7月上旬、都内で開催された。昨年は東京会場とオンラインのハイブリット開催だったが、今年は4年ぶりに完全にリアルのみで開催され、多くの人々でにぎわった。そんなWiTから、毎年恒例の海外OTA、日本OTAそれぞれが参加するセッションの内容を紹介する。

国内OTA、生成AIやフィンテックのサービス開始へ

楽天グループコマースカンパニーヴァイスプレジデントトラベル&モビリティ事業事業長の高野芳行氏

 国内OTAのセッションでは、リクルート(じゃらん)、一休、楽天、JTBの4社が登壇し、注目のトレンドや2023年の現状、今後の課題などを議論した。チャットGPTの登場でますます注目が集まる「生成AI」については、各社とも注目しているとの考えを示すとともに、JTB以外の3社が1年以内に生成AIを使ったサービスをローンチする計画であることを明かした。

 旅行業界で次々に投資がスタートしているFinTech(フィンテック)については一休以外の3社がサービスを計画・または既に実施しているとした。楽天グループコマースカンパニーヴァイスプレジデントトラベル&モビリティ事業事業長の高野芳行氏は、楽天の金融部門と連携したサービスを展開していることを説明。加えて楽天のモバイル事業についても言及し、「モバイル事業が成功していくとお客様がどこに行って何に興味を示しているのかといった行動データがかなり正確にとれる。(フィンテックもそうだが)位置情報を生かしてマーケティングすれば、楽天トラベルのサービスはさらに良くなる」と期待を述べた。

各社の「成長機会」は?AI、グローバル、業務・採用支援など多種多様

一休執行役員第二宿泊事業本部長の巻幡隆之介氏

 セッションでは、モデレーターを務めたWiT Japan実行委員責任者でベンチャーリパブリック代表取締役社長兼CEOの柴田啓氏が「自社にとっての次の大きな成長機会はどこか」と質問。楽天・高野氏は「グローバルとAIの活用」を挙げた。グローバルについては、アウトバウンド・インバウンドの優先順位が高いとしながらも「やっていかなければ将来の繁栄の道はなく、これからの戦略の方向性として持っている」と説明。グローバルOTAについて「規模・財政面・テクノロジーで非常に強く、我々はポジション的には弱い」としながらも「挑戦しなければ絶対に勝てない。チャレンジマインドを持ち続けていれば最終的には彼らとどうこうできる存在になるのでは」と意欲を示した。

 一休執行役員第二宿泊事業本部長の巻幡隆之介氏は「ヤフートラベルとAI」と回答。一休の親会社・ヤフーは今年の10月にLINEなどと合併して「LINEヤフー」になる予定だが、この影響について「LINEと近くなるので、新しいユーザー体験を提供できれば」と話すにとどめた。

リクルート(じゃらん)旅行Divisionオフィサーの宮田道生氏

 リクルート(じゃらん)旅行Divisionオフィサーの宮田道生氏は、「旅ナカ消費と業務・採用支援」とコメント。業務・採用支援についてはリクルートの「Airビジネスツールズ」を活用していることに触れ、「観光DXプロジェクトとして地域にAirビジネスツールズとフィンテックと旅行データを提供し、需要を予測する実証実験もしている。リクルートとしての事業シナジーは見えてきた」と話した。

 JTB執行役員Web販売事業部長の池口篤志氏は「インバウンドと旅ナカ」とコメント。加えて、同社が進めるオンラインとオフラインが融合したOMO(Online Merges with Offline)戦略について「店舗でもお客様とのコミュニケーションがオンラインになりつつある」と振り返った。同氏によれば、ウェブサイトで店舗スタッフ個人の紹介ページを設けている店舗は約75%で、ページではスタッフの得意分野などを紹介。来店またはオンラインでの相談予約の際に参考になるという。

 また、同氏はウェブ上で販売していないパッケージツアーについて店舗やコールセンターでの問い合わせが増えていると説明。特に海外旅行については「(コロナ禍の)3年間あまり海外に行かなかったため不安に感じ、ウェブサイトで予約するのではなく、相談したいというお客様が一定程度いる」と現状を述べた。

 なお、各社の23年の振り返りについては、国内旅行で各社とも好調に推移。2023年4月から6月の予約件数では、JTBはオンラインで2桁以上の伸びを示しており、じゃらん・一休も同様であるという。楽天は数字は明かさなかったものの、22年の国内宿泊流通総額が19年比12.9%増であることを示し「息切れせず非常に好調に推移している」(高野氏)とした。

「総理になったら何をする」?各社の会社特性が分かる回答に注目

JTB執行役員Web販売事業部長の池口篤志氏

 国内OTAのセッションでは、柴田氏が恒例の一問一答式でさまざまな質問をおこなった。このうち「総理になったら何をする?」という質問では、JTB・池口氏が「グローバルにとってビザの発行が障壁となっているので軽減が必要」と回答。楽天・高野氏は訪日外国人向けの通信環境の改善を課題として「WiFiサービスの提供を楽天モバイルを通じてできれば」とグループならではの発想を披露。一休・巻幡氏は2025年に大阪・関西万博が控えるなか「国際的イベントの周知」を挙げた。じゃらん・宮田氏は都市部はオーバーツーリズム、地方は誘客など「地域になって課題が異なる」としたうえで、「(課題に)うまくマッチングする施策を考えたい」と話した。

 このほか、課題となっている旅行業界の人手不足については、4社とも本格的な解消は当分先との考えを示した。楽天は労働条件の改善による根本亭な解決が必要とし、JTBも「条件改善が大前提だが、動きが加速すれば2025年よりも前に解決する可能性を秘めているのでは」と話した。

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