じゃらんが掲げる「地域消費額増」に必要なものは?人材不足をどう解消する?-じゃらんフォーラムより

  • 2023年7月3日

持続可能な地域戦略に必要なものは?旅行は「投資」、第二の故郷化も

リクルート旅行Divisionじゃらんリサーチセンターセンター長・とーりまかし編集長の沢登次彦氏

 フォーラムではリクルート旅行Divisionじゃらんリサーチセンターセンター長・とーりまかし編集長の沢登次彦氏が「地域主体で取り組む、持続可能な地域戦略について」と題した講演を実施した。同氏はwithコロナ、afterコロナから考える旅行のキーワードとして「量から質」「消費から投資」「ゲストからホスト」「短期から長期」を挙げた。「量から質」については、好きなものに投資する傾向があることから「ニッチだが深いところを狙うことに単価をあげるチャンスがある」との考え。「消費から投資」については、「『今を楽しむ』から『未来につながる』投資がコロナの中で価値観として高まってきた」とし、第二の故郷や移住先を探す旅行者が出てきたことを説明した。

 「ゲストからホスト」については、サービスを受けるだけでなく、地域や宿泊施設をリスペクトして交流・支援する「ツーリストシップ」ともいうべき意識が生まれてきていると説明。特に若者を中心にそうした流れがあるとし、「ゲストからホストへの感覚が生まれ、交流がより盛んになるのでは。注目している動き」と語った。「短期から長期」についてはワーケーション市場が今後さらに拡大する見通しであることから「ロングステイを受入する工夫が重要になっていく」とした。

 このほか、世界から見るキーワードとしては「サステナブルツーリズム」「自然の中での体験」「メタバース」などを列挙。このうちメタバースについては「旅行前に試すのでエンゲージメントが高まる。リアルトどう組み合わせるかが課題」と話した。

 今後取り組むべきこととしては、沢登氏は「高付加価値化から始める好循環サイクル」「国内の新しい市場開拓 交流人口から関係人口へ」「IT技術とデータの利活用(観光DX)」「地域主体のサステナブルツーリズムへの取り組み」「地域の未来の担い手づくり」の5点を挙げた。

 「高付加価値化から始める好循環サイクル」については「高付加価値化がゴールではなく、地域のあこがれの仕事がゴール」と強調。高付加価値化により顧客満足度を高め、単価を上げて利益を従業員に還元することで、従業員のモチベーションが上がり人員の確保につながるとした。「国内の新しい市場開拓 交流人口から関係人口へ」については、「地域への愛着作りが関係人口につながる」と語り、「何度も行きたいなじみの場所を作りたい」という気持ちが旅行者側に芽生えていることから受入態勢を整える必要があるとした。

 「IT技術とデータの利活用(観光DX)」については、デジタル化により地域に蓄積されたデータを活用し、経営の意思決定につなげていくことを提案。「地域の売上最大化が産業の成長につながり、雇用を守ることになる。それをコントロールすることがDMOに求められる」と話した。

 「地域主体のサステナブルツーリズムへの取り組み」については、東京都杉並区高円寺の事例を紹介。銭湯文化とアートホテルなどを組み合わせた訪日外国人向けの約3時間のツアーを造成し、外国人向けの旅行会社を招いてモニターツアーを実施したところ1社が即販売を開始し、海外メディアの取材依頼もあったという。沢登氏は「いつもの生活で面白い、大切にしたい観点を見つけてツアーや商品として仕立て、魅力を地域全体で伝える」取り組みが重要とし、宿泊施設に加え、地元のコミッティと協力し、文化を守るというサステナブルな取り組みを進めるよう提案した。

 「地域の未来の担い手づくり」については長野県塩尻市の事例を紹介。塩尻市は地域産業の担い手不足で大学進学者の71.5%が県外に出てしまうという課題を抱えており、こうした課題解決の一助とするため、中学校で未来の産業の担い手を育てるための探求プログラムの実証実験を実施。塩尻産のブドウのファンを増やす方法を中学生を主体に地域産業の担い手を巻き込み検討し、ブドウの枝や搾りかすを釣った商品開発と販売促進を一気通貫で実施した。その結果、中学生たちの興味関心を高めると同時に、先生や地域の事業者にも学びに気づきが生まれたという。沢登氏は今回の取り組みについて「観光・宿泊産業の将来の担い手を獲得するアプローチの一つ」とし、「こうした取り組みを観光・宿泊業界とやっていきたい」と意欲を語った。