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観光産業の人材育成・確保とDX活用を考える、TIFS設立記念観光リカレント特別セミナー開催

 インバウンド集客を手掛ける「Tokyo Creative」、文部科学省から「DX等成長分野を中心とした就職・転職支援のためのリカレント教育推進事業」の委託を受けて観光人材育成に関するリカレントプログラムを実施している「大阪観光大学」及び「TIFS(観光産業を構成する中小及び個人事業主連合会)」の3者主催によるセミナーが1月24日開催された。セミナー内では人材育成・確保とDX活用という観光産業が直面している課題に関するパネルディスカッションや観光リカレント事業に関する基調講演などが行われたが、今回は実施された2つのパネルディスカッションについてレポートする。

セミナーの様子


パネルディスカッション第1部「観光DX人材育成と人材確保の課題解決」

【パネラー】
雪国観光圏 代表理事 井口智裕 氏 
神奈川大学国際日本学部 教授 高井典子 氏 
大阪観光大学観光学部 教授 小槻文洋 氏 

【コーディネーター】
大阪観光大学観光学部 教授 小野田金司 氏 


 2008年に立ち上げた雪国観光圏の活動を通じて観光地域づくりの最前線で活躍する井口代表は、観光地域づくりの人材問題について、「実は観光地域づくりの場に旅館の関係者があまり参加しない傾向がある」と、観光に係る事業者間の一体感の欠如を指摘した。短期的な瞬発力に基づく成果が求められる宿泊ビジネスと、長い時間をかけて成果を出す観光地域づくりでは、そもそも視点が異なり「来年の売上や今月の給料支払いをどうするかに追われる宿泊事業者は地域づくりを考える余裕もない」のが原因だが、「宿泊事業者の場当たりの強さや、とにかく形にする瞬発力を取り込み、価値観を共有して互いのスキルを発揮すれば観光地域づくりの大きな成果につながるはず」と、地域が一体感を持って連携できれば伸びしろも大きいと期待をかける。

 高井教授は、本来は人材供給源となるはずの観光を学ぶ大学生のリアルについて説明。観光業界で働くために観光学部に入っても、「観光業界を現実的、相対的に見るようになり待遇面の実態なども知ることで、観光業界以外への就職を選ぶ学生は多く、観光業界へ進むのは全体の3割未満。またせっかく観光業界へ進んでも離職率が高い」と述べた。

 観光業界のインターンシップにも問題ありとし、「学生を受け入れた旅館が忙しすぎて単純作業に追われるばかりで魅力を知ることなく時間が過ぎてしまうケースも多いようだ」と報告する。その一方で、民泊の普及などによりゲストとホストの境界線があいまいになり、双方の役割が流動化することが幸いし、宿泊業に対する価値観や評価が変わっていく「風向きの変化を感じる」と希望をつないだ。

 また小槻教授は旅行業界のイノベーションが、若者に観光ビジネスの魅力を伝えるチャンスにつながるとして「おてつたび」をイノベーションの実例に挙げた。「お手伝いをしながら旅をする『おてつだび』を活用すれば経済的余裕が少ない若者も積極的に各地へ出掛けて行くことが可能で、多くの学生が地域の魅力に触れることによって、観光と自分の成長、あるいは社会の豊かさとの接点を見つける助けになる」というわけだ。

 さらに井口代表は、人材育成に関する大胆な構想を明かした。人材育成は人材が一定期間定着してくれなければ投資分が単なる持ち出しになってしまうため、人材の流動性が高い宿泊事業者の人材育成意欲を阻む要因になっている。しかし井口代表は「社内で週1回程度の塾を開催する構想を持っている。自社に留まってくれることなく3、4年で自立してしまうことを前提とし、それでも育成を図る方がお互いにポジティブだし、会社としては福利厚生の一環と位置付けることもできる」との考えだ。

高井氏(左) 小槻氏(右)

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