新卒採用は「コミュニケーションスキル」中途採用は「価値観と志」を見極める-星野リゾート料飲統括エグゼクティブシェフ 梶川 俊一 氏

  • 2023年1月12日
  • 出典:HOTERES

星野リゾートは、フラットで Mature な組織文化を持つことにより、働く人たちが高いモチベーションを保ちながら仕事に取り組むことができる環境づくりを推進している。料飲部門においては、地方の食文化を探求できる「Region Food Meister Course」と最短距離でシェフを目指すことができる「Chef Management Course」を設置することで、料理人が自らのキャリアの道筋を選択できるようにしている。このような独自の仕組みを構築している星野リゾートにおいて、料飲部門ではどのような意識と信念を持ちながら人材の採用を行なっているのだろうか。料飲統括エグゼクティブシェフの梶川俊一氏に、新卒採用と中途採用それぞれにおいて重視するポイントについて聞いた。

  • ㈱星野リゾート
    料飲統括エグゼクティブシェフ
    梶川 俊一 氏

    〈プロフィール〉1966 年宮崎県生まれ。93 年日本ソムリエコンクール史上最年少優勝を果たし、94 年パリ国際ソムリエコンクールにて世界第5位入賞。1999 年㈱星野リゾート入社。2000 年料飲統括マネジャーと総料理長を兼任。食育メソッドの実施やスイーツ博の開催など斬新な食の創造、食文化の発信に取り組む。06 年星野リゾートグループ全体の料飲統括エグゼクティブシェフに就任。

優先すべきポイントは
調理技能より社会人リテラシー

▶星野リゾートの調理部門における人材採用の状況を教えてください。

 2023 年度入社の調理部門は 22 名の新卒内定者が決まっていますが、まだ採用活動は継続していますので、最終的にさらに増える可能性があります。新型コロナウイルスの感染状況が厳しかった時期はどの宿泊施設も採用を控えていたため応募数が増える傾向が見られましたが、コロナの状況が次のステージを迎えている現在は採用活動が再開したことで、人材マーケットにおける競争は激化していく印象を受けています。

 新卒採用に関しては、基本的に星野リゾートグループ全体で一括採用する形を採っていますが、加えて事業所採用を行なう拠点もいくつかあります。各エリア内にある施設での勤務を希望する学生もいらっしゃいますので、長年ご縁のある学校との強い結びつきを維持しながら現地採用も進めています。

▶採用のステップはどのように進めていますか。

 はじめにエントリーシートを提出していただき、書類選考を行ないます。合格者については、私をはじめチームメンバーが分担して 1 次面接を行ないます。1 次面接の通過者は配属予定先の施設の総料理長、あるいは総務担当者、総支配人による 2次面接を受けていただき、そこで合格した方に内定を出します。

▶採用において最も重視していることは何ですか。

 調理の技能よりも、社会人として持っておくべきリテラシーがあるかどうかを見ています。新卒の応募者は調理師学校を卒業した方がほとんどですが、調理の技能というものは実務に就いてから向上していくものです。ですから、技術的に出来上がった人を新卒で採ろうとは思っていません。

 むしろ実務に就いてから技術的な向上を図るためには、職場で交わされる言葉の理解力やコミュニケーション能力が必要と考えます。つまり社会人としての基本的なリテラシーが根底にある人でなければ、スタートラインには立ちづらいと思います。

▶中途採用の場合との異なるポイントはどこでしょうか。

 中途採用の場合はスキルよりも、その人が持っている価値観を重視しています。その人の価値観が星野リゾートの価値観と合致していることが必要であり、加えてどのような志があるのかを見極めていきます。

 価値観と志は両方とも重要ですが、料理長の採用と調理スタッフの採用は比重が少し変わってきます。やはり料理長となる人には、より高い志を求めることになります。

「地方の食文化を掘り下げたい」
という意識が高まっている

▶コロナの前後で、志望者の傾向に変化は見られますか。

 コロナの影響で何かが変わったとは感じていませんが、世代によって職場に求めるものが変化してきているとは思います。特にこの 5 ~ 6 年は、「地方の食文化を掘り下げてみたい」という意識を持つ学生が非常に増えてきています。地方の食材を発掘し、地方の生産者と触れ合い、地方の食文化を深く知りたいという欲求が強まってきていると感じます。また調理の技術だけでなく、総合的なスキルを身につけたいという思いを持つ方々も増えてきました。

 以上は新卒の応募者の話ですが、中途の応募者に関してはコロナに大きな影響を受けていると思います。「安定した職場で働きたい」という声が確かに強くなってきています。

 採用面接から得られる志望者の生の声は、私たちにとって大切な情報です。私自身も必ず面接官の 1 人に加わって人任せにしないのは、自分の耳でその声を聞く必要があるからです。

▶コロナ禍を背景に、街場のレストランからホテルの調理部門に移りたいという意向が中途採用のマーケットで増えていませんか。

 街場のレストランからホテルへという動きは、それほど見られないと思います。コロナによって顕著になった流れとしては、勤務体系や報酬体系が不明瞭な職場から、明瞭な職場に移りたいという動きだと思います。昔と違って今の時代は、ホテルは明瞭で街場のレストランは不明瞭という区分けはなくなりました。街場であっても経営感覚に優れた個人経営のレストランはたくさんありますから、両者の差は見られなくなってきているのが現状でしょう。