日本交通公社、SDGsを軸に「地域社会と調和する観光」を考察~第32回旅行動向シンポジウムから~
日本交通公社は先ごろ、ウィズコロナ期における観光産業のSDGsにフォーカスしたシンポジウム「地域社会と調和する観光」を開催した。第32回旅行動向シンポジウムのプログラムの一環として行われたもので、コロナ禍からの再起動を図る観光地の在り方として欠かせないSDGsの視点を、ハワイや沖縄の事例を交えて考察した。
最初に「サステナブルツーリズムの視点」として日本交通公社環境計画室長兼沖縄事務所長の中島泰上席主任研究員がサステナブルツーリズムの全体像を俯瞰的に概説した。ここで強調されたのはサステナブルツーリズムの概念の幅広さだ。中島室長によるとサステナブルツーリズムへの参加動機は、「何を持続させるのか」という目的意識と「取組の時間軸」の掛け合わせで決まるが、「何を」については環境、社会、経済の3要素がある。時間軸については「中長期的なビジョンに基づく」ビジョン追求型と「現在起きている問題と直近の課題の解決に取り組む」問題解決型の2つがある。
これらを掛け合わせた6つの参加動機が存在し、ビジョン追求型の参加動機としては環境の持続を主眼に生物多様性の確保などを目指す「エコロジーマインド」、社会の持続を主眼に訪問者と訪問者の交流を目指す「まちづくりマインド」、経済の持続を主眼にエシカル市場の獲得などを目指す「グリーンマーケマインド」を挙げた。一方の問題解決型には、環境の持続を主眼に温室効果ガスの削減などを目指す「資源保全マインド」、社会の持続を主眼にオーバーツーリズム問題などに取り組む「ソエタルマインド」、経済の持続を主眼に交流人口創出や地方創生に取り組む「プロプアマインド」を挙げた。
事例としてタイのマヤビーチを紹介。マヤビーチは映画の舞台になったことで有名になり、観光客が押し寄せて海洋生物の生息環境が悪化したため、政府が3年間にわたり観光客の立ち入りを禁止した。これが「環境持続」と「問題解決」の掛け合わせを動機とし、短期的収入より一定に資源回復を優先した取り組みの典型例であると解説した。
中島室長は「サステナブルツーリズムはきわめて幅広いため、全部をやり切ることはできないし、各地域が取り組むべき内容も異なる。他地域で成果を上げているからという理由で取り組むというものではない。サステナブルツーリズムに王道はない」と指摘し、地域の現状と目指す目標に見合った取り組みを各地域で見出していく姿勢が必要だとした。
サステナビリティと楽しい時間が両立する欧州
続いて日本交通公社活性化推進室長の中野文彦上席主任研究員が、サステナブルツーリズムの先進地であるとされる欧州観光事情を説明した。中野室長は9月下旬から10月初旬にかけてデンマークを視察した結果を踏まえて、コロナ禍からの再起動に向けた観光戦略のなかで、サステナブルツーリズムがどのように機能しているかを報告した。
それによると、コペンハーゲンの沖合に浮かぶEU内で最もサステナブルな島とされるボーンホルム島は、人口4万人の島に年間66万人以上の来島者と180万泊の滞在を受け入れる規模感のなかでサステナブルツーリズムを実践している。宿泊施設も「ヨーロッパで最も環境に優しいホテル10選」に入る、ホテル・グリーンソリューション・ハウスが営業している。ホテル内ではプラスチック製品はほぼ使用されておらず、タオル等の交換頻度は宿泊客の選択制になっている。
中野室長はボーンホルム島やコペンハーゲンでの体験を踏まえて「ことさらに環境対策を目立たせてはいないが、環境に優しい選択に困らない」状況が用意されており、「サステナブルであるために楽しい時間を諦める必要がない」のが特徴だという。
また、サステナブルツーリズムで観光の再起動を図るデンマーク観光局の「サステナビリティは、訪れる理由ではない。しかし、再び訪れる理由である」という考え方を紹介し、「サステナブルは再び訪れてもらうために、観光地にとって必須の基盤的な取り組みであり中長期的な取り組みである」(中野室長)と解説した。