UAサイパン線就航、マリアナ3島レポート(2)-テニアン編
日常に溶け込む戦争の痕跡、平和を考える貴重な機会に
ユナイテッド航空(UA)によって9月1日から待望の直行便が復活したサイパン。マリアナ政府観光局(MVA)は「マリアナケーション」のタグラインや「超得キャンペーン」などによりその販売促進に注力中。9月第1週に実施されたメディアFAMのレポート第2弾はテニアン島について。日本の歴史や平和について身にしみて考えさせられた貴重な経験を共有したい。マリアナの基本情報とサイパンをテーマとした第1回はこちら。
テニアン基本情報
テニアンはサイパンの南南西すぐに位置する島で、面積はサイパン島の約120km2に対して約100km2。調べてみると兵庫県宝塚市や神奈川県横須賀市と同じくらいの大きさのよう。
テニアンへの移動はサイパンから乗客定員5人程度の小型機で約10分。離陸後あっという間に到着するが上空から島の全景を眺めることができ楽しい。ちなみに以前は船による定期航路もあったが現在は貨物輸送のみに。一方、航空便については今回利用したスターマリアナス航空のほか今年からはマリアナスサザンエアウェイズも就航している。
激戦の地としてのテニアン
テニアン島は、今回の視察で複数の参加者が最も印象に残ったと感想を言い合った場所。なにがそう特別かというと、日本がマリアナ諸島を統治していた頃の痕跡や太平洋戦争時の戦跡が今でも生々しく残っている点だ。
戦争の悲惨さを伝える施設は日本にもあるが、それらの多くは目的をもって保存されたり新たに建てられたもので、筆者にはどこか「ここに来たらこう思うべき」というような教科書的な窮屈さが感じられる。美術館で「これはピカソ作で価値は10億円」と言われてから作品を見るような感覚だ。
しかしテニアンでは、数々の歴史の遺物がほとんど放ったらかしのような状態で残り、感想も解釈も自分に委ねられる。
例えば島の南部にある「住吉神社(別名 天仁安神社)」では、南国の日差しとジャングルのような緑のなか傾斜を上がっていくと苔むした鳥居が見えてきて、続く階段の先には傷んだ社殿が待っている。日本でもよく目にする通りの神社が半ば朽ちようとしながら見慣れない風景に溶け込んでいるのを見た時、「ここはかつて日本だった」という事実が胸に飛び込んできた。その瞬間まではいつもの「海外」取材のつもりだったのだが、以降は目に入るものすべてが違って見えるようになった。
日常のすぐそばにある遺構
視察ではこのほか、警察と消防の機能を持っていたという警防団の本部跡、日本軍通信局跡、日本海軍司令部跡、陸軍が隠れたジャングルのほら穴などを見てまわった。通信局跡などでは柵もなにもないので建物に触れたり内部に入ることもできてしまう。さらにウォーキングコースの道端には当時の爆弾の錆びきった鉄片などが今でも落ちている。こうした体験は日本ではなかなかできないだろう。
また、米軍が上陸した場所であるチュルビーチなどでは防衛用のトーチカも。ここも中に入ることができるが息苦しい狭さの内部には、玉砕という無惨な結末を迎える約2ヶ月前に彫られたと思われる「昭和拾九年五月弐拾五日 麻生隊」の端整な文字がはっきりと残る。
そして島の南端には大勢の日本人が身投げして亡くなったスーサイドクリフがあり、それを見上げるカロリナス台地には多くの慰霊碑が立てられている。今でもテニアン島だけで数千人の遺骨が収集できていないという悲惨さと、周囲の底抜けに明るくて美しい景色の対比に胸がヒリヒリとしいたたまれなかった。
歴史や平和と向き合う機会に
住吉神社を訪れてから頭のなかを離れなかったのは「ここにいた日本人はこの天国のような場所でどのように暮らし、何を思いながら戦争に突入し、そして死んでいったのか」という思い。また、上陸時に使われて放棄された兵器の残骸からは攻め入った側の米兵の心中も想像してしまう。原爆も米国の視点では「戦争を止めた爆弾」でありそうした視点の違いにも思い至る。
こうして「自分ごと」として太平洋戦争前後の歴史と向き合ったのはこれが初だったが、ウクライナ戦争の惨状を目にし世の中のきな臭さも増すなかで、今の平和な日常のありがたみが強く感じられた。
ビーチや自然の魅力も十分
もちろん、テニアンは他の島々に負けず劣らず一般的な観光の魅力もしっかりと備えている。古代王朝のプライベートビーチだったとされるタガビーチには、岩場に隠されたスペースもありスケールは異なるが映画「紅の豚」のアジトのよう。
また、先ほども触れた米軍上陸地点であるチュルビーチは星の砂に出会える場所でもある。
おそらく、長々と書いてきた戦争遺跡も外見はただの古めの廃墟や見慣れない形の構造物でしかなく、説明を受けなければ気にも留まらず、普通に観光し南国らしい時間を満喫して帰ることもできるはず。
とはいえ、日本人としてやはりそれではもったいないのではないか。旅行業界としても、逆に休暇を楽しみながら学びの機会が得られる稀有な特徴を積極的に打ち出すことでサイパンやロタのなかでも個性が光り、さらに他のビーチデスティネーションとの差別化にも繋がっていくはずだ。夏休みの自由研究テーマとしての提案も可能性を感じるし、島間の移動はネックだが特に若者には教育旅行などで是非とも訪問の機会が与えられてほしいと思う。