「何のために」「どれだけ」? 値上げを実現する3つの方向性と8つの手法-亜欧堂 堀口洋明氏

  • 2022年9月20日

値上げの手法は8つもある

 どのくらい値上げするかを検討したら、次は実現方法を検討しましょう。大きく3つの方向性・8つの手法が考えられます。

3つの方向性8つの手法
I 全体的な値上げ(1)全体的な値上げ
(2)提供価値の再定義
II 一部値上げ・追加販売(3)一部値上げ
追加販売(4)オプション販売
(5)高額商品投入
(6)別ブランド立ち上げ
III 販売比率の調整(7)高単価商品の比率向上(販売促進)
(8)低単価商品の比率抑制(販売停止)

I 全体的な値上げ

(1)全体的な値上げ
一般的に値上げといえばこの「全体的な値上げ」を考える人が多いのではないでしょうか。最も効果が出ますがリスクも高い手法です。特に注意すべきは、お客様それぞれに予算があり大きな価格変更は購入してくださるお客様が変わることを意味する点。新しく狙うべきお客様を選び、そのお客様に合わせたマーケティングを実施する必要があります。

(2)提供価値の再定義
提供価値の再定義を行うことで大きく価格を引き上げられた事例もいくつも報告されています。こちらの記事(『顧客への価値提案を再定義すると、ビジネスの方向性も変わる』DIAMOND ONLINE 2018.1.12)を参考にどうぞ。

II 一部値上げ・追加販売

「値上げ」を「単価・平均価格の上昇」と読み替えれば一部の値上げや追加販売も検討できます。効果が大きくなりにくい反面リスクを抑えることができる方向性です。

(3)一部値上げ
売れ行きの良い商品(部屋や宿泊プランなど)を値上げする方法です。最も安価な部屋タイプが最も売れているホテルが多いのですが、オーシャンビューや露天風呂付きの部屋など売れ行きが良い部屋タイプは値上げを検討できます。日々の在庫管理の中で在庫がなく販売停止することが多い部屋は、ぜひ値上げをご検討ください。

(4)オプション販売
従来の商品に加えてオプションを販売して単価を上げる方法です。ホテルで言えばチェックイン時のアップセル(上位の客室を追加料金で販売すること)が該当します。現在も行っているホテルもあるでしょうが、さらに以下の観点を検討することをお薦めします。

1. タイミングの追加:チェックイン時のアップセルだけでなく、予約時・チェックイン前・滞在中など

2. 販売するもの:客室に加えアクティビティや料理、バルーン・装飾など滞在目的に合わせたオプションなど

(5)高額商品の投入
従来の商品に比べて高単価の商品を新たに投入する方法。その商品が売れれば売れる程、単価も上がります。ホテルで言えばコラボルームなどが該当。この方法をとる場合は商品別の利益率を考慮しましょう。高単価商品であったとしても利益率が今までより低ければ、販売する意味は薄れてしまいます。

(6)別ブランド立ち上げ
高額商品投入のバリエーションとして別ブランドの立ち上げも考えられます。別ブランド化することで従来商品に定着している価値観の影響を受けにくくなります。ホテルニューオータニの「エグゼクティブハウス 禅」が好例だと思います。

III 販売比率の調整

ホテルの客室や宿泊プランのように既に価格帯の異なる商品を持っているならば、販売比率を変えることでも単価は上がっていきます。

(7)高単価商品の比率向上(販売促進)
高単価商品の比率が高まれば単価は上がります。その為には高単価商品ほど基本的なマーケティングを徹底すること。狙うべきお客様を選び、そのお客様に合わせてマーケティングミックスを検討するのが基本的なマーケティングです。

ターゲティング:その商品が合うお客様は他にいないか
商品:お客様に合わせて商品の調整は必要ないか(宿泊プランで言えば、プラン名・写真・プラン説明文の修正、特典などの変更)
販売価格:若干値下げすることで高単価商品の販売数を増やせないか(例:高単価客室の差額は現状のままで良いのか)
販売経路:売りたいものほど販売経路を増やせないか・あるいは販売していない経路はないか
広告宣伝:売りたいものほど広告宣伝の頻度や範囲を増やせないか

(8)低単価商品の比率抑制(販売停止)
低単価商品の比率が低くなれば単価は上がります。ホテルで言えば閑散期には数を取る為に有効な低単価の宿泊プランを、繁忙期には販売停止して比率を下げる方法が挙げられます。ホテルは需要に応じて価格を変える「ダイナミックプライシング」を行っていることが多いので、「低需要時に思っている以上に安価に販売してしまっている商品がある」問題が起きやすくなっています。その問題を防ぐ為にも、価格帯別にどのくらいの部屋が売れているかという分析を行うことをお薦めします。

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