「想定外」は責任逃れ、危機後の事業継続のために-JATA経営フォーラム
BCPの策定、危機による機能停止型シナリオが重要
では、BCPはどのように策定すればいいのだろう。災害には大地震をはじめ、風水害、感染症、火災、設備事故、テロ等々がある。何らかの災害を仮定した方が対策を描きやすいため、BCPは個別の災害原因別に作成されがちだ。そのため、いくつものBCPを策定している企業も少なくないが、「これだと100の災害があれば100のBCPが必要になり、その100以外の災害が起こった時に「想定外」を作り出してしまうことになる」と、川村氏は話す。
そこで注目すべきは、災害の原因ではなく影響だ。3.11時における首都圏では、実は地震のBCPよりインフルエンザのBCPの方が役に立ったという話がある。なぜなら、インフルエンザは感染防止のため、ある一定割合の従業員が出社しないことを前提に計画されていたからだ。
つまり、福島の原発事故におけるBCPなら、M9.0の巨大地震や高さ14メートルの津波という災害の原因を想定するのではなく、緊急炉心冷却装置が作動しない、あるいは全電源の喪失という機能停止という影響を想定すべきだったということだ。リスク事象型のシナリオでBCPを策定すると災害の原因ごとにBCPが必要となり、設計的にもコスト的にも際限がなくなる。しかし、機能停止型のシナリオで影響のレベル(どのような機能が損傷・喪失するのか)に焦点を当てれば、原因はともあれ事前に考えておいた体制や対応策で問題の解決をはかることが可能になる。川村氏はこれを「新しいBCPのリスク・シナリオ」と説明した。
具体的には、「災害の原因にかかわらず、災害の影響による機能停止シナリオを描き、業務や事業の復旧に必要な経営資源を洗い出しておくとよい」(川村氏)。例えば「人員」という経営資源においては、「意思決定者と連絡がとれない」「従業員が5割しか出社できない」などが考えられ、「建物」や「設備」では「本社や工場が破損して機能しない」「製造ラインや非常電源が機能しない」、「情報」では「システム障害でデータベースが使えない」、「資金」では「当面のキャッシュフローが不足」といった影響状況があがってくる。こうした状況への対応策を検討しておくことで「想定外」をなくし、ひいては最悪の想定外連鎖を防ぐのである。
「BCPはとかく製造業において注目されがちだが、旅行業の場合は金融業に近いのでは」と川村氏はいう。なぜなら旅行業も金融業も基本的に物を持たない業界だからだ。金融業にとっては人員・金・情報が、旅行業にとっては人員・情報が主な経営資源。これらの要素から最悪の機能停止シナリオを想定してBCPを描くことが、今後のリスクマネジメントにおいて急務となろう。
なお、世界ではもはやBCPが企業としての価値を左右する判断材料の1つとなっている。2010年11月には、ISO(国際標準化機構)によりCSR(企業の社会的責任)に関するガイダンス文書「ISO26000」が発行され、世界共通のCSR概念が確立していることを覚えておきたい。