スマホ、位置情報、拡張現実-ITマーケティングと旅行・観光分野の可能性
拡張現実(AR)で観光地に魅力付け
鶴本氏が「もう1つ、主人公になっていく」として紹介したのが拡張現実(AR)だ。ARとは、現実環境にコンピュータを用いて情報を付加・提示する技術、および情報を付加・提示された環境のこと。日本ユニシスの中川氏はすでに旅行・観光のシーンにあるものとして、観光目的としては例えば「お台場のガンダム」や「北海道のクラーク博士の銅像」などがあるが、ARでは「熱海でのラブプラス」「箱根でのエヴァンゲリオン」などを紹介。「実際にモノとしてあるものと、この中(スマートフォン)で見えるものがどれだけ違うのかということ。いまどきのスマートフォンユーザーでマニアの人は、これを楽しみに熱海や箱根に行き、現地の消費に繋がっている」と述べ、「ARとは現実にネットの仮想情報を付加してよりたくさんの情報とリッチなコンテンツを提供できるもの」と語る。
日本ユニシスではいくつか取り組みを実施しており、例えば境港市では「デジタル妖怪探し」の実証実験を実施。水木しげる博物館の中で拡張現実機能をもたせた「目玉おやじロボット」とスマートフォンを使って館内に設置したデジタルの妖怪を探し、取り込んでいくというものだ。通常期の来場客は館内を1周して退出するが、デジタル妖怪探しの参加者は2周する人も多く、その後エリア内で飲食をして休憩するなど街での滞在時間の増加に繋がった。
利用した子どもからも、「すごくドキドキした。すごく怖かった」という感想があり、中川氏は「楽しいアトラクションとして作ったが、子どもにとっては現実のお化け屋敷のように捉えてくれた」と喜び、「水木しげるの妖怪の世界観を、スマートフォンの位置情報を使って作り出すことができた。ARが新しい観光の目玉になると思っている」と、新たな可能性を強調する。
現実世界にウェブ技術を使った新たな発想また、世界観の演出だけでなく、時間の概念を越えた使い方の可能性も紹介。例えば、銀座での実証実験「タイムトラベルナビ」。江戸から平成まで時代ごとの銀座の街並みを現実と重ね、映画やドラマなど関連情報と重ねて、スマートフォンで見ることができるというものだ。
中川氏はITの進化と旅行業界の変化として、1990年代は気のまま志向の個人旅行ではガイド本や格安航空券、2000年代の事前調査型クチコミ旅行ではインターネットや予約サイトが必要だったが、2010年代は今だけ・ここだけ志向のAR旅行で「新たな感動」が必要だとし、そこにはスマートフォンや位置情報、ソーシャルメディアを活用した新しい発想・表現の場を提供するARクリエーターや、ARの画面変遷を記録して市場調査するARマーケティングがでてくるのではないかと推測する。
鶴本氏は「ARによる新しい発想」をキーワードとし、「世の中の現実に新たに発想したARを重ねていく。旅行・観光分野なら、ガイドブックがそこに搭乗してもいいかもしれない」と述べ、例えば、目の前の観光地をスマートフォンにかざすと、その名前や歴史背景などがガイドブック的に出てくるといった可能性を語った。