海外旅行復活は「0からのやり直し」、4つのフェーズで慎重な取り組みを-JATA経営フォーラム
顧客とのコミュニケーションにデジタル活用は当たり前
日常と非日常の接点づくりも重要
デジタル活用で顧客との接点を拡大
分科会では旅行会社2社がコロナ禍で顧客との接点をもつための取り組みを紹介した。酒井氏はオンラインセミナーを実施した旨を語り、コミュニケーションが一方的になりやすい、顧客の顔が見えないためニーズが汲み取りにくいといったデメリットを指摘。一方で、メリットとしてコロナ前は都市ごとに行っていたセミナーが1度で済むこと、アーカイブ配信が可能であること、渡航率が低く海外旅行に不安を感じる人の多い、都市部以外の顧客にリーチ可能であることをあげた。さらにコミュニケーション不足に対処するためにチャット機能を活用したことを紹介し、「リアルではその場で手を挙げて質問するのは勇気がいるが、チャットならつぶやきレベルでいろいろな質問できる」と利点を説明した。
加えて、酒井氏は海外旅行という年に数回程度の「非日常」だけでなく、顧客と日常的にコミュニケーションを取るために新しいサービスを開始したことを説明した。同社ではKDDIと協業し、昨年10月からサブスクリプションサービス「クラブツーリズムPASS」をスタート。趣味や学びのオンライン講座を提供し、旅行ガイドブックなどの電子書籍を読み放題にするサービスで、酒井氏は「趣味や学びの先には『見てみたい』という非日常につながる。クラブツーリズムパスを通じて日常的に知的欲求を満たしながら、コロナ後のお出かけ欲求につなげてもらうことを考えている」と話した。
柴崎氏は「デジタル化の取り組みをしつつますますアナログ化」していることを説明。例として海外旅行の添乗などで同行した顧客に対し、電話でコンタクトを取り、時には1時間程度話すなど密にコミュニケーションを取ったことをあげた。また、その際に同社の顧客とするシニア層が想定以上にスマートフォンやLINEを利用していることが分かったことを受け、公式LINEを作成。これまで同社で実施したコンサートや講演などの動画を編集して提供するとともに、2020年10月のオフィス移転の際にはその様子を早送り動画で送信した。顧客からは段ボールでマスクを寄贈するなどさまざまな反応があったといい、柴崎氏は「デジタルを使ってお客様との距離をさらに縮めることができた」と振り返った。
こうした話を受け、高橋氏は「今までは経験と勘と思い込みプラスで、パンフレットの売れ筋をどう並べるか、品ぞろえと売れ筋のコントロールで顧客を呼んでいた」と今までの旅行業界を振り返り、そうした手法が通じない現在は「デジタルツールを使わないコミュニケーションはありえない」と強調。デジタルデータを上手に活用することで、新規顧客の取り込みや他市場への接点が持てるといった利点を語った。
また、高橋氏は人々が旅行についてインターネット検索する際の検索ワードとして、デスティネーションやホテルの名前はあがるが旅行会社の名前はほぼあがらないという現状を説明し、「あらかじめ顧客を持っている場合は、過去の顧客とのリレーションをどうデジタルでつなぎ留め続けるかが重要。今から新規顧客を獲ろうと、検索ワードの上位に旅行会社があがるようにするのはお金がかかるだけ」と訴えた。その上で、「これからの世代は『旅行』と『飛行機と宿を予約する』ということの区別がつかなくなる」と語り、「そうすると旅行会社という検索ワードは存在しなくなる。そのなかで旅行会社が取り分を持って戦えるようなキットを作らなければならないし、それもデジタルでやらないといけない」と話した。
シニア層に対応しつつ、ポストシニアやミレニアル世代の需要喚起を
分科会では顧客との関係を深めた上での商品造成の重要性が確認された。シニア層がターゲットという柴崎氏は「お客様の背景、何が好きか、旅行だと歩行状態やアレルギー、飲む薬は何かなど、そういうことは10日間ご一緒にすると分かる。そういうこと踏まえてコミュニケーションを取ることを心がけている」と、顧客情報を活かした旅行商品の造成を重視する姿勢を改めて示した。さらに、国内旅行「日本の旅」の造成の際、社員が現地に実際に足を運んだ情報を活かしている旨を語り、例として旅館に宿泊する場合は客室から風呂まで移動する際に使う階段の数まで調べていることを紹介。「お客様を知ると同時に旅行企画の内容を全員が熟知する必要がある」とした。