ウィズコロナ時代のアクセシブル・ツーリズムを考える-東京都が5回目のシンポジウムをオンライン開催

 東京都産業労働局はこのほど「アクセシブル・ツーリズム推進シンポジウム」をオンライン開催した。同シンポジウムは、アクセシブル・ツーリズムの理解促進と認知向上を図り、最新情報を広く提供するのが目的で今回が5回目開催となった。アクセシブル・ツーリズムはバリアフリー・ツーリズムやユニバーサル・ツーリズムとも称される旅行ジャンルと重なり、障害者や高齢者等を含む誰でもが不自なく旅を楽しめる状態を目指す取り組みだ。

北澤氏

 今回のシンポジウムは、元サッカー日本代表で現在は日本サッカー協会や日本女子サッカーリーグの理事で、日本障がい者サッカー連盟会長も務める北澤豪氏による基調講演をおこなった。北澤氏は障害者サッカーには、視覚や聴覚あるいは四肢の障害や知的障害のある者が障害の内容と程度に合わせて楽しめる7種類のサッカーがあることを紹介。より優れることを競うのがスポーツの本質ではなく「誰もが楽しめるのがスポーツの価値である」と訴えた。またかそれぞれのサッカーが観る者の心を打つかを具体的に説明したうえで「ぜひ一度、障害者スポーツの会場に足を運び、その迫力を感じ楽しんでみてほしい」と呼びかけた。

 基調講演に続いて「ウィズコロナ時代の観光産業再興とアクセシブル・ツーリズムの未来」と題したパネルディスカッションが、旅行関連事業者や宿泊事業者等をパネラーに迎えて開催された。

パネルディスカッションの様子

 アクセシブル・ツーリズムをビジネスとしても成立させられるか否かは事業者にとって重要なポイントだが、その市場規模に関してANA X総務人事部CS推進チーム・田中穂積マネジャーは、数字で表すのは困難としながらも、コロナ禍で普及したバーチャルツアーや、旅行商品販売のデジタル化の進展がアクセシブル・ツーリズムの拡大を促す可能性を指摘。「Webアクセシビリティの国際規格であるW3C(World Wide Web Consortium)と旅行業界のデジタル化を連動させることで、アクセシブル・ツーリズムを拡大できる」とその可能性に言及した。

 アスリートネットワーク副理事長で日本パラリンピアンズ協会の副会長も務める根木慎志氏は、パラリンピック閉会式で示された「We The 15%」の数字を取り上げ、「15%とは世界中で障害を持つなど生きにくさを抱える人の割合のこと。そんな世界で、誰もが輝けることをアクセシブル・ツーリズムを通じて知ってもらいたい。パラリンピックでは選手が日本を旅することはできなかったが、選手村の観光情報コーナーは予想以上の反響があり、また日本へ来て旅行をしてみたいという声も多かった」と、潜在需要の大きさを示唆した。

 またパラリンピック開催の影響にも触れ、「もう年だから旅行はできない、車椅子では旅行は無理と諦めてしまう人は少なくない。しかしパラアスリートが、一般的には諦めてしまうような状況にもかかわらず競技を通じて驚くべき能力を示して見せることで、諦めていた人を『できる』に変える効果があったと思う」とした。

 バリアフリーの宿泊施設運営に実績を持つ富士レークホテルの井出泰済代表取締役社長は、「20年かけて受け入れ体制を整備してきた積み重ねで現在がある。客室のトイレや風呂、大浴場などのバリアフリー化を一気に進めようと思えば、千万円単位の投資が必要になるが、宿泊客に合わせた備品や用具を備えておくだけでも受け入れが可能になる。少ない費用で取り組みを始め、少しずつ拡充することは可能だ。ただし自社施設でできることとできないこと、受け入れができるのか、できないのかを事前にしっかり説明する配慮が必要。事前の問い合わせに明確に答えられなければ宿泊客に迷惑をかけてしまう」と宿泊事業者にアドバイスした。

川内氏

 また東京のアクセシブル・ツーリズムの可能性に関して、モデレーターを務めたアクセシビリティ研究所主宰の川内美彦氏は、「東京のバリアフリー状況は世界でも高いレベルにあり、受入環境は整ってきている」とし、東京のポテンシャルの高さに期待感を示した。これに対してANA Xの田中氏も「世界を巡ったが正直なところ東京はナンバーワンと言っても過言ではなく、オリパラを機にさらに充実した面もある。しかも東京はもともと自然にアクセスしやすい強みもある。こうした魅力を旅行事業者が世界に向けていかに情報発信していけるかが問われている」と旅行業界の取り組みを促した。