橋下徹氏が観光事業者へアドバイス「行政の支援メニュー活用を」-Rakuten Optimism2021
楽天が国内外の各分野の業界リーダーたちを集め、デジタルの可能性について意見交換するため開催したビジネス・カンファレンス「Rakuten Optimism2021」。「観光業の持続的な成長に向けて」のテーマのもと、元大阪府知事・元大阪市長で弁護士の橋下徹氏と、楽天グループ執行役員コマースカンパニーヴァイスプレジデントトラベル&モビリティ事業事業長の高野芳行氏(※高ははしご高)が対談した。
観光業を持続的に成長させる方法として、橋本氏は自治体の首長を務めた経験からデスティネーション側の立場で発言。最も重要なのは、空気感の醸成であると繰り返し強調した。「私がさかんに空気感と言うと役人たちは『空気感を定義して欲しい』と言ってくる。しかし明確な定義はできない。それでも大阪には大阪らしい雰囲気があり、これを売りとしていくほかない」(橋下氏)。
京都には京都の景観条例があり、例えば原色の使用が規制されている。ローソンのイメージカラーである青や、ケンタッキーフライドチキンの赤も、京都では落ち着いた色の看板に変えている。ビルに掲げられる看板等にも同様の規制がかかる。それが京都の空気感を産んでいる。
一方で「大阪の街をきれいにというのは良いが、看板の規制を強くして道頓堀のカニの看板が撤去され、串カツの幟がなくなり、グリコのネオンがなくなったら大阪らしい空気感は無くなるし観光客は来てくれなくなる」(橋本氏)。そこで看板の規制を緩和し原色や動画も原則自由に使えるようにして大阪の空気感の醸成を後押ししたのが橋本氏だった。
また大阪中心部に流れる水路沿いエリアでも規制緩和を実現。もともと、こうしたエリアの活用は河川法など多くのルールで規制されているが、橋下氏は「大阪では特区に指定することで規制を回避し、水辺テラスとして飲食店などが活用できるようになり賑わいを取り込むことに成功」し、結果的に水辺の景観も改善されたという。
高野氏は橋本氏に対して、コロナ禍で厳しい観光関連事業者へのアドバイスも求めた。これに対して橋本氏は行政が用意している支援メニューをしっかり活用することを勧めた。「日本の行政は状況が悪い事業者をお金で支えるのが基本。経営メカニズムに任せて退場を迫るべきという意見もあるが、良くも悪くも支えるのが日本流。だから事業者を支える制度が数多く用意されている。しかし行政側の告知不足もあって全てが活用されているとは言えない。事業者の皆さんは弁護士や専門家に相談するなどして使えるものは使うべき。事業主も積極的に支援メニューを知ろうと努力すべき」(橋本氏)だからだ。
さらに高野氏は観光事業者が行政とつきあう上でのアドバイスを求めた。これに対して橋本氏は、行政は特定業界や事業者からの働きかけだけに対応することはできないと断ったうえで、行政への働きかけ方について「思い付きの提案は意味がない。行政が耳を傾ける価値があると判断するように、フィジビリティ―つまり実行可能性をしっかり議論、検討したうえで提案することが重要だ」と指摘した。橋本氏はその経験から、思い付きの提案は条例や制度上、実現不可能に近いものが多いという。これでは行政が提案を取り上げることはない。
また行政側の担当者は頻繁に異動し、そのたびに提案を一からやり直さなければならない場合もあるが、そうならないように「地方自治体の基本方針、基本戦略に盛り込まれるような提案を作る。つまり一担当者を納得させるのではなく組織全体の方針に取り込まれるような提案を意識すべきだ」(橋本氏)。さらに、実行可能性のある提案を作り行政の方針・戦略に盛り込まれるようにするためには「提案を実のあるものにするための勘所をわきまえた政治家や元役人、首長経験者などの力を借りることも大切。もちろん金で行政をゆがめるといった話ではなく、提案を行政に受け入れてもらうには適切で専門的なアドバイスがどうしても必要だ」(同)とも説明する。
最後に観光業界へのメッセージを求められた橋本氏は「コロナ禍の重しが取れれば抑えつけられてきた人々が大いに旅行や飲食を楽しむはず。観光や飲食の事業者は一番ダメージを受けてきたのだから、しっかり取り戻してほしい。自分の五十数年の人生を振り返っても思うことだが、結局人生のプラス・マイナスの帳尻は合うようにできている。この2年間、本当に苦しい時間を過ごしてきた観光や飲食の事業者は、絶対にその分を取り戻せるはず。それを信じてこれから大いに儲けてほしい」とエールを贈った。