馬を通じて「より良い生き方」を考えるー美馬森八丸牧場 八丸健・由紀子夫妻

  • 2021年7月5日

企業研修プログラムも、旅行会社にはコンサルティングの役割を期待

-東松島市に移ったのはなぜでしょうか。

 きっかけは東日本大震災でした。当時我々は馬を運ぶ4トントラックを使い、盛岡に集まった支援物資を岩手県沿岸部に届ける活動をしていました。そこで小学校の校庭が瓦礫だらけだったり自衛隊の駐屯地になっていたりと、子どもたちが遊べる場所がかなり制限されていることを知り、彼らを牧場に招待する活動もしていました。

 その頃私は森に関する課題にも取り組んでいました。林業では大きな重機が入り込むために平らな道を作る必要があり、森を壊してしまっているのが実情ですが、馬ならそんなことはせずに資材を運ぶことができます。その取り組みを通して環境保護活動家のC・W・ニコルさんとご縁ができ、ニコルさんの財団関係者から盛岡で行っている活動を東松島でもできないかと声をかけられ、この地とのご縁が繋がったという経緯です。

-岩手と宮城両方で活動をされていたのですね。

由紀子 東松島に移転してきた2018年の4月まで、日帰りや1泊で行き来を重ねていました。数えてみたら300往復、地球7周半くらいですね(笑)。 実は「美馬森」という言葉もその移動中に閃きました。

 盛岡から東松島への移転は3年計画で行いました。盛岡の牧場を解体した資材を宮城の牧場に再利用し、ほとんどごみを出さずに移転しました。

-牧場で行っているホースコーチング研修について教えてください。
馬が整地した牧場の裏山。癒しのプログラムではハンモックに揺られながら森林浴を味わうこともできる。

由紀子 馬を媒介者とした自己リーダーシップの開発とパートナー形成の向上に繋がる研修です。

 馬の行動心理というのは安全・快適・遊び(内から湧き上がる衝動)ですが、まず安全がないと快適にはなりませんし、快適でないと遊びには移行しません。これらを理解して自分自身や他人との人間関係に当てはめると、より自身に対してリーダーシップを発揮することができると考えています。前向きで進歩的、そして自然体という、生きる姿勢を馬から学ぶことができるのがホースコーチングのエッセンスだと思っています。

 プログラムには定型のプロセスがあるわけではなく、来られた方の状態やニーズに合わせて、馬や森という素材を通じて「より良く生きる」とはどういうことかを考えてもらう時間を提供しています。

-旅行会社に望むことはあるでしょうか。

 コンサルティング的な立場で、企業と牧場とを定期的に繋ぐようなパッケージを造成してもらえたらと考えています。当牧場では春夏秋冬でさまざまな体験ができるので、それを通して企業の社員の皆さんに共通言語ができることでコミュニケーションが活発になり、結果として仕事の柔軟性が上がることが期待できます。

 馬との関係性で大事なのは「リスペクト」です。相手からの投げかけに対してちょうど良いかたちで応答することでリスペクトが成立し、そのキャッチボールを重ねることでラポール(信頼と親密)が生まれます。同じことは人間同士の関係にも当てはまり、それができてくると企業は強くなると思います。また、企業だけでなく社員個人や家族の問題にも適用できますので、相乗効果で企業が良い形に変わっていく助けになれたらと考えています。

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