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復活の鍵は「文化観光」、アートと観光で街づくりを目指す-芸術文化観光専門職大学学長 平田オリザ氏

観光やエンターテイメントは人間の生きる楽しみ
業界はポストコロナに向けて連帯を

-ご自身の紹介もお願いいたします。

平田 私は劇作家、演出家で、この20年ほどは主に国際的な共同作品を手掛けてきました。一方で大学の教員も20年以上続けており、演劇的手法を使ったコミュニケーション教育やリベラルアーツの教育をしてきました。また、小中学校の国語の教科書を作るお手伝いや演劇の授業も行っています。

 観光業界に関しては、2009年に国交省成長戦略会議の観光部会の座長を務めたのですが、そこで星野リゾートの星野さんなどからも色々と学ばせていただき、その経験が今役に立っています。

 例えば通年集客や休日分散化という課題。豊岡市内にある城崎温泉は非常に人気がある一方で、「1泊2食2万円」といった既存の旅館モデルは崩れ始めています。人手不足で夕食を出さない旅館もあれば、夜を自由に過ごしたいという若い方も多い。こうして城崎にもおしゃれなカフェやレストランが増え、若者受けするスポットに変わりつつあります。最終的に狙うのは東アジアの富裕層の長期滞在です。国際リゾートの必須条件は昼のスポーツと夜のアートですが、但馬には竹野海岸のマリンスポーツや神鍋高原のスキーなど魅力的なスポーツがあり、夜のアートも育ってきている。但馬は国際的なリゾートになれると思っています。

 また、これまで9月は観光のボトムシーズンでしたが、昨年9月に豊岡演劇祭を始めたところ、神鍋には年間3000万円から4000万円のお金が落ちました。スキーが年間2億円から3億円であることを考えても、コロナ下では非常に大きな額です。

 文化観光がピンポイントでボトムシーズンを埋めることで通年集客が可能となり、通年雇用が可能となる。すると観光産業が一層有能な人材を集めることができるようになります。私たちは文化の側面からこれらの課題を支援できるのではないかと考えています。

-日本は文化観光が弱いというお話がありましたが、詳しくお聞かせください。

平田 私がよく挙げるのはウィーン国立歌劇場の例です。オペラではソリストの喉を休ませるため毎日同じ演目を上演することはできず、日本では間に休演日を挟みます。ですがヨーロッパでそれをすると音楽好きの観光客は翌日オペラが観られる他の街に行ってしまうため、ウィーンでは毎日違うオペラを上演しています。すると彼らはスーツケースをホテルに置いて昼間は近郊の観光地を訪れ、夜は戻ってくることになる。

 オペラを楽しむ富裕層は、1万円から2万円のチケット代に加え、ホテルに食事、お土産も入れて最低でも5万円は落とします。オペラ座の収容人数が2000名ですから、直接消費だけで1日1億円、年間250ステージあれば250億円です。そこにホテルやレストランの雇用が生まれ、消費が生まれる。税金で文化政策として毎日違うオペラを上演しても十分にペイすることになります。

 ヨーロッパではLCCが浸透し、午前中パリにいて夜ウィーンでオペラを観るということもできます。また観光消費で見ると昼と夜とでは7倍から10倍違うというデータもあります。そこで各都市はどうやって宿泊してもらうかを考えるわけですが、そのとき重要になるのが文化観光政策です。日本で文化観光政策というと既存の文化資源をいかに活かすかという話になりがちですが、例えば美術館などは、それ自体は良いのですがリピート率が低いんですね。一方ライブエンターテイメントはコンテンツさえ入れ替えれば同じお客さんが何度でも来てくれます。

 これは但馬が抱える課題にも通じます。日本人の国内旅行と違い、訪日客は1都市を拠点に色々な都市を訪れますから、それを前提に売り方も考えなければなりません。城崎は吸引力のある街ですが、単独で生きていける時代ではないので、回遊性を高めることによって、地域全体としてアジアの富裕層が但馬という国際リゾートを楽しめるようにしていきたいと考えています。そのときにスポーツも含めた文化が大きな役目を果たします。それを構想、企画、運営できる人材を育成することが本学の一番の願いです。

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