OTOA、ワクチン接種率上昇で観光再開、14日間隔離撤廃に期待
人材流出、海外担当者の不在など再開時の懸念も
日本海外ツアーオペレーター協会(OTOA)のプレスインタビューがさきごろ行われ、現況や観光再開への見通しについて報告された。同時にランドオペレーターが置かれる厳しい現状も示され、さまざまな問題点も挙げられた。
プレスインタビューに先駆けて開催された第30回通常総会の総括によると、3月末の会員数は前年から17社減に留まり、112社となったが、これは会員数維持のために会費の半額措置に踏み切ったため。非営利であるOTOAは収入源を会員費に頼るが、観光庁のツアーセーフティーネットへの安全情報提供を継続受託したという。
OTOA会長の大畑貴彦氏は、ワクチン接種率の上昇が海外旅行再開への肝であることを強調。「OTOAとしてはワクチン接種率が60%から70%まで増えていかないと業界が前に進まない」と語気を強めた。
同副会長の荒金孝光氏は、「今ハワイのワクチン接種率が60%弱まで進み、ニューヨークも観光客を受け入れるなど、アメリカが観光政策で先行している。カナダでは摂取率が75%以上になったらアメリカとの国境を再開すると首相が明言しており、アメリカ国境を開けるのが7月21日と見ている」との考えを示した。
海外旅行再開はオリパラと選挙が鍵
ワクチン接種率上昇で海外旅行再開への兆しが見えてきたものの、海外旅行復活の大きな壁は帰国後の14日間隔離。大畑会長は次のように見通しを述べた。「オリパラの間は海外客を入れないことに関連し、14日間隔離の撤廃はしない。9月末から10月中旬までに実施される秋の選挙中にも政治判断で対応しないだろう」。
海外旅行再開については「まずはハワイ。夏に500人以上乗れるANAのフライングホヌが飛ぶ。タイのプーケットは7月から隔離なし入国を実施している」。あとはワクチンの接種率の問題で、8月末までに6000万人から7000万人にワクチン摂取が進むかどうかだという。「オリパラ前に加速度的に摂取が増えて4000万人から5000万人になると状況が変わり、ハワイが8月OKになり、選挙で14日間の隔離は取り払われる可能性は高いのでは。インバウンド再開時は接種率60%から70%でオリパラ成功というのが一番綺麗なシナリオ。失敗しても年末までに摂取率70%超えると1月までには開く」と述べた。
再開ロードマップない中で再開時への不安
声をあげていくのがOTOAの役目と、6月15日にコロナ以来初開催となるJATAのアウトバウンド促進協議会(JOTC)役員会でツアーオペレーターの現状を訴えると大畑氏はいう。
まず、海外旅行再開までの指針となるロードマップがないため、1年以上ビジネスがなく事業計画も描けない。転職者を防げず人材も流出した。さらなる懸念事項が旅行会社の海外旅行担当者の不在。GoToトラベル事業で国内にシフトし、旅行業以外への出向者も多いといい、「ビジネスパートナーがいない状況で再開時に2019年並みのハンドリングができるのか」と危惧する。
政府による旅行業界への支援策がGoToトラベル事業のような国内旅行だけであることも問題視。「海外しかやっていないOTOAには何の補償にもならない。国内旅行だけでなく、アウトバウンド、インバウンドの3つを同時に進めていくべき」と強調した。
世界の観光はすでに動き出し、日本人枠がなくなる
OTOAはアフターコロナのツアー形態や取引慣習も変わらざるを得ないとみる。再開後に、ホテル、レストラン、車など取引先が前払い制になることを危惧しているという。「今後出発前に全額払うことになると、立て替える体力がない。事業者間取引の適正化以上の話。そこは旅行会社への協力を声を大にして要請したい」(大畑氏)。
加えて、世界では海外旅行の需要が回復しつつあることに触れ、「カナダではヨーロッパなどの旅行会社からの需要が増えてホテルが既に取れなくなっている。料金も上がり、スペースもなくなり、今までと同じやり方では通らない」(荒金氏)。中国人やほかのアジア人が動いて、先に支払うようになると、日本人を受け入れる余地がなくなる可能性があることは大きな懸念材料だ。
旅行形態も大量販売のビジネスモデルが崩れるとみる。今後1年から2年はワンバスでのツアーは難しく、ワゴン車で価値の高いツアーが増えていくとの見方を示し、「大量送客から小さいグループサイズに変わると全てのツアーにガイドが付くのは無理。ガイドフィーも上がっていく」(荒金氏)。直前キャンセル料無料プランがあり、クレジットカードで支払いのできるOTAのようなビジネスモデルが選ばれていくだろうという。
メディア、パッケージ、団体の旅行形態から商品が細分化していくと、オペレーター側も今までのような料金は出せなくなる。パッケージツアーも、補完していたオプショナルツアーが売れなくなるとビジネスモデルも廃れる。予約プラットフォーム会社が増え、ツアーオペレーターが独自でアプリ開発をしたり、OTAやホテルチェーンと組む可能性にも言及された。
「塩野義製薬が年内に3000万人分のワクチンを量産することは明るいニュース。国産ワクチンが出ればよい流れに変わる。今が一番の我慢のピークにある」(大畑氏)。