需要が戻った時にスタートダッシュを-アートツーリスト代表取締役 上原龍男氏

 苦境にあえぐ旅行会社。それは長年業務渡航の第一線を張ってきた老舗旅行会社でも変わらない。京都をベースに学術渡航と業務渡航を手掛けるアートツーリスト代表取締役の上原龍男氏に業績への影響、実施した施策、需要回復に関する考察について話を聞いた。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)

-コロナ発生から今日までの業績への影響やコストセーブ等の対策をお聞かせください。
アートツーリスト
代表取締役 上原氏

上原龍男氏(以下敬称略) 2021年4月末の決算段階で売上高は対前年95%減でした。コストセーブについては、オフィスが自社保有で家賃支援給付金の対象にならないこともあり、大幅なコストカットは難しかった。また、需要が戻ってきた際に人員が足りないと成り立ちませんので、雇用調整助成金を申請し、基本給は100%保証のまま人員削減もしておりません。

 雇用調整助成金は6月いっぱいで終了と聞いていますが、ANTA本部から7月以降も延長してほしいと政府に申し入れはしており、期待しているところです。ただ、もし雇用調整助成金が打ち切りになった場合は、在籍型出向に取り組もうと考えています。今も準備を進めており、色々なハードルはあるが、今まで一生懸命やってきてくれた社員の雇用を守ることが一番大事だと思っていますし、本人や会社が失敗したのであれば仕方がないことですが、今回のコロナは外的要因なので雇用者として守れる間は守ってあげたいと思っています。

 一方、コロナで図らずも時間ができて会社を改めて見直すことができました。業務改善はもちろん、就業規則を見直してテレワーク規程を作成したり、柔軟なシフト制を導入して従業員のニーズに合った働き方ができるようになりました。

-需要はいつ頃戻ってくるとお考えですか?

上原 航空会社や空港関係者などと意見交換していますが、まず日本国民がワクチンを摂取しないと始まらないと考えています。50~60%まで行き渡るのは12月頃と想定しており、イギリスの状況を見ると、接種率が50~60%になって3か月後に感染率が落ち着いてきているので、日本も来年の3月頃にある程度の回復が見込めるのではないかと考えています。

 ただし、そこまで一切人の移動がないというわけではなく、ワクチンパスポートなどの制度ができれば、ビジネス層は積極的に動き出すだろうと感じています。当社は学会関係の仕事を多く取り扱っていますが、学会については昨年一旦オンラインに移行したものの、その後は結局オンラインとリアルのハイブリッド型に移行しました。やはり対面で集まって十分な意見交換ができる環境で開催したいというのが当事者である研究者の方々の意向です。一般企業は経費の問題もあると思いますが、学会は研究ありきなので、研究者の意向が反映される可能性が高いです。しばらくは学会にリアルで参加される教授方も半分程に減るかもしれませんが、その後徐々に戻ってくるのではと想定しています。

 一方、ワクチン効果の持続性、どのくらいの頻度で継続接種が必要なのか、変異種への効果は、など懸念事項がないわけではありません。当社としては来年2022年3月時点で2019年対比30%、翌年2023年4月に2019年対比の8~9割が戻るのではと考えています。ただし、需要の戻りが緩やかということは、回復過程で利益は少ないもののコストは変わらないという時期が長期化するため難しいところです。SARSの時は半年くらいで需要回復しましたが今回は3年程かかると見込んでいます。

-最後に読者に向けてメッセージをお願いいたします。

上原 特に海外を専門に扱っている旅行会社さんへ伝えたいのは「需要は絶対に戻ると思うので、そこまでは一緒に耐えていきましょう」ということです。一度退場してしまっては戻れない。耐え残った者だけが回復してきた需要を吸収できると感じています。そういう意味では、今は需要回復時をワクワクして待っている状態です。販売方法を変えたり販路を拡大して、需要が戻った時にスタートダッシュをかけたいと思っています。もちろん心配が無いわけではありませんが、また旅行が復興した際は面白いことになるのではと期待しています。

-ありがとうございました。