「夏に向けて需要は必ず戻ってくる」コロナ禍で進める戦略とは-星野リゾート代表 星野佳路氏

雇用調整助成金の活用で固定費の引き下げを
ポストコロナは海外案件と再生事業にも注力

—コロナ禍で「星野リゾート観光活性化ファンド」を立ち上げられました。この経緯と目的を教えて下さい。

星野氏。インタビューはオンラインで実施した 星野 コロナがなければ、全く問題のない優良施設もたくさんあります。そうした方々を、いざというときに迅速にサポートできる体制を整えようと考えました。銀行など観光事業者ではない企業にファンドの中心を担ってもらい、投資をおこなっていただくことで、日本国内の優良なホテルや旅館の事業継続をサポートし、コロナ収束後の早期回復に貢献していくことを目指しています。

—ポストコロナに向けての取り組みをお聞かせください。

星野 コロナ禍で中断している海外案件を早い段階で再開させる計画です。まず、2021年春の開業を予定している中国・浙江省天台山の「星野リゾート 嘉助天台(かすけてんだい)」をしっかり対応していきます。さらに、ホワイト・ベアー・ファミリー(WBF)の支援にもしっかり取り組んでいきます。運営会社としての実績から、再生案件を担う人材も整ってきており、こうした人材を活用していくことで、星野リゾートはより強い組織となると考えています。

—最後に、観光産業に向けてのメッセージをお願いします。

星野 観光事業者にお伝えしたいのは、政府による雇用調整助成金の有効な活用です。この施策は、産業全体に大きなプラスになっていると思っています。失業率抑制においては、「Go To トラベル事業」以上に効果は高いでしょう。問題は、単なる助成金と考えると、最大限活用できないというところです。

 すべての事業は固定費と変動費から成り立っています。変動費は客数がふえれば増えていき、固定費は客数に関係なく払う必要があります。雇用調整助成金を上手く活用すると固定費だった人件費を変動費にすることができるため、固定の人件費が下がり、変動費の角度は上がります。その結果、損益分岐点は下がるのです。稼働率が60%、70%で利益が出ていたホテルは、雇用調整助成金の意味を正しく理解して毎日のシフトを最適化すれば、おそらく損益分岐点となる稼働率は50%程度になります。

 そのなかで、日々適正人員を考え、下がった損益分岐点に向って、マイクロツーリズムでマーケティングをおこなっています。これで相当損失は埋められるのではないかと考えています。この時期は利益を出すのではなく、損を出さないことが大切。これは星野リゾートがウィズコロナを乗り越えるための最大のポイントです。ワクチン接種が進む今夏頃までは、こういう経営を続けていく必要があるだろうと思っています。業界全体でこうした取り組みをおこなっていくと、もう少しスムーズに困難を乗り越えていける可能性があるのではないでしょうか。

—ありがとうございました。