「夏に向けて需要は必ず戻ってくる」コロナ禍で進める戦略とは-星野リゾート代表 星野佳路氏
雇用調整助成金の活用で固定費の引き下げを
ポストコロナは海外案件と再生事業にも注力
二度目の緊急事態宣言が発出され、「Go Toトラベル事業」も一時停止されている中、宿泊施設の苦境は続いている。そのなかで、一早くGOTOキャンペーン停止の対応や、新たな施策で存在感を放つ星野リゾート。過去の危機の経験から、的確な予測を立て、機動的な対策を打ち出しながら、コロナ禍の経営を進め、ポストコロナへの道筋を見据えている。「第3波を乗り切れば、夏に向けて観光需要は必ず戻ってくる」と話す同社代表の星野佳路氏に、これまでの取り組みや今後の見通しについて聞いた。(聞き手: 弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)
星野佳路氏(以下、敬称略) 過去を振り返ると観光産業にとって大きな危機は、5、6年に一回起こっています。たとえば、バブル崩壊、不良債権処理、リーマンショック、東日本大震災などが挙げられます。私個人の30年のキャリアでも今回のコロナは5回目の大きな危機といえます。コロナ禍でもこれまでの経験を生かして、社内でやるべきことを早い段階で組み立てることができました。
危機に直面したときに一番大切なのは優先順位の組み換えです。ウィズコロナは長期戦になると思っていましたので、昨年4月第1週目には社内で2020年4月から6月のコロナ禍の三大方針を打ち出しました。それまで大事にしてきたブランド戦略の優先順位を少し下げて、それよりも短期的なキャッシュフローを重視する方針に変えました。通常は長期的に経営を見ますが、この時期は短期的な視点に切り替えました。
もうひとつ大事なことは、コロナが終わったときに、しっかりと復活するためには、人材を失わないこと。人材は星野リゾートにとっての競争力です。なんとか人材を維持したまま、復活を迎えるために、「18ヶ月サバイバルプラン」を策定しました。
日本の国内旅行市場は約22兆円と非常に大きい。さらに、コロナで海外旅行が停止している中、その市場規模の約3兆円が国内に流れるため、国内旅行市場の潜在性は拡大しています。インバウンドは消滅しましたが、その市場規模は約4.8兆円。海外旅行需要が国内に戻ってくることを考えれば、インバウンドの喪失は実は大きな影響にはなりません。
人の流動は、感染者の拡大や規制などに合わせて自粛期と緩和期の波を繰り返すと予想し、緩和期にその大きな国内需要を狙っていこうという大枠の戦略を立てました。最初の緊急事態宣言が解除された後、それまで準備してきたことが機能し始めました。
また、社内的には、5月に「倒産確率」というものを出しました。危機のときに社員が一番知りたいのは会社の存続。この「見える化」への社員の反応はよかった。5月から始めて、6月には40%程度に上がりましたが、7月と8月で需要が回復し、11月には8%まで下がりました。昨年末からは第3波によって、また確率は上がっていますが、過去の経験から自粛で需要は下がっても、その後は必ず戻ってくることが分かっていますので、社員の安心感は昨年とはかなり違います。