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【弁護士に聞く】旅行業の廃業を選択する際の留意点と休業という選択肢

  • 2021年2月17日

 会社組織(株式会社等の法人)が旅行業を営んでいる場合の廃業には、法人自体を解散する方法と、旅行業は止めるが法人は残すという一種の休業の方法がある。


会社の清算にも金がかかる

 法人自体を解散して消滅する場合も、資産が債務を上回る場合の通常清算と、債務が資産を超過する場合の破産又は特別清算(法的整理)とがある。債務超過がはっきりしている場合は破産申立てを裁判所に行い、破産管財人を選任してもらい、裁判所の監督下に破産管財人によって清算手続が行われる。帳簿資産上は債務超過ではないと思って、解散して清算人を任意に選んで清算を進めていったところ、資産が思いのほか毀損していた場合や、予想外の債権者が現れた場合等で債務超過の疑いがでてきたとき等は、清算人は裁判所に特別清算の申立てを行い、特別清算人を選任してもらい、裁判所の監督下で特別清算人によって清算が行われる。

 通常清算に比べて、こうした法的整理は裁判所の手続が必要なため、弁護士等の専門家に依頼せざるを得ないことと、破産管財人や特別清算人に対する報酬に相当する額を裁判所にあらかじめ納付する必要があることから、会社の規模にもよるが少なくとも数百万円の資金が必要となる。会社経営がピンチになっての廃業では、目先の資金繰りに追われて、最後の始末のための資金さえなく、野垂れ死にというケース(昔は債権者の追及を恐れての経営者の夜逃げで終わったが、最近は平和になり「廃業しました」の張り紙1枚で終わりのことも)もあるので、周囲に迷惑をかけずに名誉ある廃業をしたい場合は注意したい。

通常清算のタイミング

 通常清算の場合にはそうした心配は必要ないが、いつの段階で解散して清算手続に入るかが問題である。法的に廃業しなければならない理由はないことから、従業員は解雇できないので、その雇用の確保をしなければならない。既に締結済の旅行契約があればその旅行は催行しなければならない。催行中の旅行があれば、その旅程管理もしなければならない。株主総会で会社を解散する旨決議すると、会社を消滅させるためにあらゆる事業活動を終了し、資産・負債の清算業務のみ行う清算会社に移行することになるので、従業員の雇用の継続、締結済みの旅行契約の履行、催行中の旅行の旅程管理といった問題は、解散決議前に解決しておかなければならない。

 これらの問題を解決する一番良い方法は、理論的には旅行業を承継してくれる他の旅行会社を見つけることだ。しかし、債務超過ではないとはいえ、廃業を決意するというのは通常は将来に見込みがないからだろうから、実務的にはかなり困難な方法かも知れない。もちろん、事業売却とは異なるので、旅行業を顧客関係、従業員雇用関係、仕入れ先との取引関係を一体とした組織として考える必要はなく、切り売りする感覚でも問題はない。

 旅行業法は、旅行業登録が形骸化するのを嫌っているので、解散決議をしたときは、解散の日から30日以内に事業の廃止の届を登録行政庁にしなければならない(第15条1項、同法施行規則第38条)。届出により旅行業の登録は抹消される(同法第20条1項)。なお、清算結了後も何か問題が生じるかも知れないことから、清算人は会計帳簿は法定の起算日から少なくとも7年間は保管し(法人税法施行規則)、清算遂行に伴い作られた重要な資料は清算結了の登記の日から10年間保管しなければならない(会社法第508条)。

休業のタイミング

 休業のメリットは、法人自体は残すので、事業の廃止届を出さなければ旅行業の登録を残しておき、再度のチャンス到来の際や、他の事業をしたいときにも利用できることだ。法人設立は、規制緩和によって、従前に比べれば、かなり容易で費用もかからなくなったとはいえ、未だ多少の手間と費用のかかることは否めない。

 ただし、休業も通常清算と同様の意味で、まだまだ余裕のある廃業のため、どの段階で休業に踏み切るかという問題がある。また、休業中といえども、法人自体は生きていることから、役員の任期満了ごとに役員の選任、登記の更新をしなければならない(定款を変更して取締役を1人にして任期を10年とするなど負担を軽くする余地はある)。旅行業の登録を残しておく場合には、売上げ0であっても同法に基づく毎事業年度の取引額の報告はしなければならない(旅行業法第10条)。なお、「引き続き1年以上事業を行っていない」ことは旅行業登録の取消事由とはなっているが(同法第19条2項)、事業意欲さえ失っていなければ、同事由で取り消されることの心配はいらない。

三浦雅生 弁護士
75年司法試験合格。76年明治大学法学部卒業。78年東京弁護士会に弁護士登録。91年に社団法人日本旅行業協会(JATA)「90年代の旅行業法制を考える会」、92年に運輸省「旅行業務適正化対策研究会」、93年に運輸省「旅行業問題研究会」、02年に国土交通省「旅行業法等検討懇談会」の各委員を歴任。15年2月観光庁「OTAガイドライン策定検討委員会」委員、同年11月国土交通省・厚生労働省「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」委員、16年1月国土交通省「軽井沢バス事故対策検討委員会」委員、同年10月観光庁「新たな時代の旅行業法制に関する検討会」委員、17年6月新宿区民泊問題対策検討会議副議長、世田谷区民泊検討委員会委員長に各就任。