シンガポールの現状と旅行業界の展望(後編)-世界の「今」を駐在員の視点から

  • 2020年10月5日

インバウンド偏重からの脱却

コロナ渦でどうなったか?

 最新の統計で状況を確認したいと思います。Singapore Tourism Boardの発表資料ですが、2020年Q1 (1~3月期)で軒並み前年同期比40%程度のマイナスになります。4~6月期はロックダウンもありましたので、前年同期比90%超のマイナス幅になっていると思われます。インバウンドに頼っているため、人々が国境を越えて自由に移動できない限りシンガポールの観光産業の回復というのはないと思います。

図2. Tourism Sector Performance for Quarter 1 2019 (Singapore Tourism Board)

Staycationに活路

 リゾートホテルが中心になりますが、少しでも需要を獲得しようとStaycationに活路を見出し始めています。リゾートホテルの場合、Roomからの直接的な収入だけではなく、レストランなどのF&Bからの収入も見込めるため、それらをバンドルしたパッケージの販売が主になります。1つ事例を紹介したいと思います。

 元郵便局を改装した伝統的建築が魅力的なフラトンホテル (The Fullerton Hotel)。5starで400室を抱えます。https://www.fullertonhotels.com/

 私も個人的に外観が好きなホテルで、staycation向けに限定プラン(今はもう購入できないようです)が販売されていたので、サーキットブレーカー(部分的なロックダウン)明けに泊まってきました。

e-Voucherの形式で、約450SGDで購入できた(下記参照)のですが、
・ルームアップグレード

・エキストラベッド無料(私の子供は今年10歳になるので必須なのですが、エキストラベッドは結構高いので、これはうれしかった)

・150SGDのF&B voucher(これで優雅にアフターヌーンティーを楽しみました)

・11時チェックイン/18時チェックアウト(ほぼ2日ホテルに滞在できる)

 などなどがついているため、実際には850SGD程度のプランのようです。それが450SGDで購入できたのですから、お得ですよね!?

 このvoucherを使い実際に予約を入れると下記のようなフォームが送られてきます。

 朝食の時間や施設利用の時間などを事前記入するもので、正直記入がすごく面倒だったのですが、チェックイン・チェックアウトのロビー、朝食のレストラン、プール、ジム等いずれも人数の制限をするためにお願いしているとのこと。Safe Distancingですね! こういうような対策を取ってもらえると、宿泊者としても安心感を得られます。宿泊体験としては言うまでもなく非常に良かったです。

 これからホテルがどのように変わっていくのか、それをうまく言い当てることはできませんが、もしかすると今後はSafe Distancingの観点からホテルを満室にするという経営は難しく、安全・衛生も考慮した上で、稼働率は70%や80%にするというのが主になるかもしれません。その代わり、安全・衛生面で顧客にアピールし、信頼を勝ち取り選ばれるホテルになる。さらに、F&Bのvoucher(ホテル内のレストランだけではなく、近隣のレストランと提携することも1つの手段ではないか)等を積極的に出すことで滞在あたりの単価を高めていく。

 もちろん、これはシンガポールの1つのラグジュアリーホテルの事例ですので、日本では異なるでしょうし、ビジネスホテル、旅館など施設のカテゴリによっても異なってくると思います。ただ、この事例が示唆するように、稼働率よりも滞在あたりの単価、安全・衛生に対する評価等に観点が移っていくのではないかと感じています。