【コラム】消費再開も業界の先は見通せず-「現状を疑う」必要性

 先々週であったか、電車の中吊り広告にデカデカと「コロナぼけ」の文字があるのを見ました。たしかに、世間では段々と日常が取り戻されつつあるようですがこちらは在宅勤務生活が4ヶ月を過ぎ、ぼけかどうかはさておき確かに「オールドノーマル」の感覚が薄れ、通勤やらオフィスでの過ごし方といった日常を思い出せなくなってきています。

 その世間の日常はというと、これも先々週の土曜日に久しぶりに焼き肉でも食べようかと外出してみたところ、目星をつけていた近所の2店舗はいずれも満席で入ることができず、席の間隔を広く取っているわけでもなさそうでしたので驚きでした。たまたまかもしれませんが、焼き肉以外の店も概ね繁盛しており、入れなかった残念さよりも飲食店の苦境が解消されつつあることを嬉しく感じました。

 一方、そうかと思えばその少し後に新宿で知人と食事をしたところ、以前であればなかなか入れなかった居酒屋が空席だらけででした。「仕事帰りに酒を飲むのはまだ気が引けるけれども、そろそろ家で食べられないものを食べたい」という欲求がそれだけ強いということでしょうか。

 この仮説が正しいかは分かりませんが、いずれにしても人々は抑制していた欲求を満たす行動をしはじめているようです。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンも東京ディズニーリゾートも、人数は制限されているとはいえ多くのファンが来場して満喫しているようですし、「Go To」キャンペーンへの関心も高いと聞きます。このまま行けば、国内旅行についてはテーマパークや飲食店と同じように、堰を切ったように需要が顕在化してくると期待できるでしょう。

 問題は海外と訪日です。海外についてはそもそも相手国が日本からの渡航について制限を解除したとしても帰国時の隔離が続けば本格的な再開は望めず、また国が受け入れの姿勢を示したからといってその国民が同じように手放しで歓迎してくれると思えるまでは安心できず、さらに座席の数が限られるが故に運賃が高くなる可能性がある、などなど無数の課題が残ります。

 7月1日に日本旅行業協会(JATA)が開催した記者懇談会では、PCR検査の拡充によって一刻も早い往来の再開を実現したい考えが示されましたが、当然それが実現したとしてもその先は長く、欲求があるのは間違いないとしても完全な復調の時期など誰にも分かりません。

 なかなか難しいとは思いますが、個人的にはいったん冷静になって、本当にここまでの反応をし続けるべきなのか、と皆が我に返ることが必要なのではないかと考えています。

 以前にもこのようなことを当欄で述べたところ、不謹慎だ猛省しろとご意見を寄せてくださった方がおられましたが、また書きます。

 インフルエンザでも毎年多くの方が亡くなっていますが往来は続いていましたし、10年ほど前の「旧新型インフルエンザ」はもはや季節性インフルエンザになったと聞きます。また、今回の新型コロナウィルスも感染者数が1000万人を、亡くなられた方の数が50万人を超えましたが、回復者数も「500万人」を超えしかも感染者を「上回るペース」で増えているのです。

 東京都の感染者が最近増えてきていますが、都は基準を変えてまで東京アラートの再発出を避けています。基準を超えたら基準を変更するくらいなら最初から不要だったでしょうし、結局小池さんの選挙に有利か不利かが動機なのだろうと感じます。逆に、当選に近づくのであればきっとどんな無意味な施策でも進んで実行するのではないでしょうか。

 観光産業、特に海外旅行を強みとする旅行会社は絶望的な状況に追い込まれました。仮にJATAの期待通り10月から多少の往来が再開でき、年明けくらいにはそれがもう少し本格的になったとしてようやく一息つけそうだ、と思った時に次の何かが来たら、業界は存続できるでしょうか。それ以降も際限なく国や地方自治体は雇用調整助成金や休業補償を支払い続けられるのでしょうか。これは旅行業に限った話ではありません。

 このように書き始めると止まらないので次回以降に残しますが、この産業に関わる我々にとっては死活問題なのですから、社会の空気を読みすぎることなく率先して現状を疑い、「本当にこれでいいのか?」「なにか変えられることはないのか?」と自問し声を上げていく必要があるだろうと思います。(松本)