【コラム】JATA会長が交代-HISが店舗3分の1削減の衝撃

 今週の大きなトピックとしては、まずは日本旅行業協会(JATA)の会長がJTBの田川博己氏から東武トップツアーズ代表取締役社長執行役員の坂巻伸昭氏に代わったことでしょう。田川氏は2014年からJATAの舵取りを担われたわけですが、6年間と考えると随分長く感じます。

 当時の当欄の原稿を見返してみると、全日空(NH)が単月の国際線座席供給量について初めて日本航空(JL)を上回ったとか、同じくNHが制服を新しくしたとか、タイでクーデターが起きているけれども旅行には影響がないとか、あるいはヴァージン・アトランティック航空(VS)が日本路線の撤退を決めたとか、そういった話題を取り上げていました。

 NHの制服の話題はつい最近のことのような気がするけれども、JLとの事業規模の逆転はもはやそれが定着していて、などと雑感を抱くわけですが、コロナ禍の現状から考えるとどれも隔世の感、というよりパラレルワールドの話のようです。

 坂巻氏は田川氏について「旅行産業を国の成長戦略の柱のひとつに導かれた」とその功績に謝辞を述べられていましたが、確かにJATAや観光産業の対外的な存在感は2014年当時とは大きく変わったように思います。

 私の印象では、田川氏はJATAの会長とJTBの会長というお立場の境界を曖昧にすることで発信力を最大化されたのではないかと感じています。その根拠のひとつはJATA会長としてのインタビューでもJTBを躊躇なく「うち」と仰ってしまうことで、取材する側としては困る場面もありました。しかし業界外からすれば、例えばJATAの存在を知らなかったり全国旅行業協会(ANTA)との違いが分からなくてもJTBは誰でも知っているわけで、そのように振る舞われたからこそのご功績なのではないかと思うところです。

 後任となった坂巻氏がどのように舵取りをされ、どのような成果をめざされるのかはまだ分かりません。このような環境では相当ハードなお役目になることは間違いありませんが、業界に関わる身としては期待せずにはいられません。

 業界環境の厳しさというと、今週はエイチ・アイ・エス(HIS)が1年以内に80軒から90軒の店舗を閉鎖するというニュースも飛び込んできました。現在の数が258軒ですから、3分の1を閉めることになります。

 会長兼社長の澤田秀雄氏は会見で、「店舗の時代は半分終わった」とショッキングな言葉で理由を説明されていましたが、確かに自信満々で店舗を運営できている企業は、少なくとも大手ではまだないでしょうし、その方法がいつ見つかるか、見つかるのかは誰にも分かりません。そう考えると今回の件も、後から振り返ってみると澤田氏の経営者としての決断力が評価される動きになる可能性があります。

 とはいえ、トラベルビジョンの読者の大半を占める現場に近いお立場の方々からすれば、所属先がHISであるかに関わらず非常に不安を覚えるニュースでしょう。今回のコロナ禍で、現実は極めて無情であるとつくづく感じているところですが、想像できる以上に悪いことが起きてもひとまずやり過ごせるようにしていかなければなりません。

 杞憂という言葉は天が崩れることを心配したというのが由来だそうですが、太陽や月が落ちてくることはないでしょうけれども、少なくともコロナの傷みが喉元を過ぎるまでは杞憂気味のマインドセットで生きていくことになりそうです。

 JATAの坂巻新会長は、コロナ以外にもこうした旅行業界の悩みにも向き合われることになります。7月1日にはメディアに対して初めてお考えを披露される機会が予定されており、もちろん記事としてご紹介予定ですので、是非ご覧いただければ幸いです。(松本)