時間外労働はいかに削減すべきか-座談会レポート(前・実名編)
違反すれば刑事罰、訴訟・賃金倍返しも
弁護士と大手6社による「本音」の意見交換
日本旅行業協会(JATA)はこのほど開催した「ツーリズムEXPOジャパン2018」で、「旅行業界で時間外労働削減は本当にできるのか ~マネジメントの意識改革は実現できるのか~」と題したセミナーを開催した。毎年「人事担当の本音シリーズ」として実施している企画の第3弾で、今年は大手旅行会社6社からJATA研修・試験委員会の所属委員が、モデレーターやパネリストとして登壇。各社の取り組みについて説明するとともに、基調講演を務めた弁護士との意見交換も実施した。セミナーの概要を紹介するとともに、前編ではパネリストの発言を記名で、後編では匿名でお伝えする。
東武トップツアーズ執行役員能力開発室長 山田徹氏
パネリスト
JTB人事部人材育成担当マネージャー 山内浩世氏
ジャルパック人事総務部長 鈴木健司氏
日本旅行総務人事部マネージャー 大賀賢一郎氏
農協観光総務部人事教育課長 浅野弘巳氏
名鉄観光サービス総務部課長 吉田雅子氏
講師・コメンテーター
御堂筋法律事務所 弁護士 谷口和寛氏
冒頭ではJATA研修・試験委員会委員長を務めるアサヒトラベルインターナショナル代表取締役会長の福田叙久氏が挨拶。「昨年から再び議論が活発化している働き方改革については、今年に入り関連法案が成立したことで対応が急務となっている」と述べた上で、「今回は時間外労働削減の解決策の糸口として考えられる、上位職の意識改革を中心に意見を交換したい」と趣旨を説明した。労務・人事のベテランである各登壇者には「どんどん本音で語っていただきたい。そうでなくては問題の核心に迫れない」と呼びかけ、忌憚のない意見交換を求めた。
続いて、主に企業法務や観光関連法務などを取り扱い、観光庁観光産業課への出向経験もある御堂筋法律事務所所属弁護士の谷口和寛氏が基調講演を実施。今年7月に交付された働き方改革関連法において導入される、法的根拠に基づく時間外労働の上限規制について解説した。
上限規制は来年4月から大企業、20年4月から中小企業で適用されるもので、月45時間・年360時間を基本的な「限度時間」とし、特別な事情がある場合でも年720時間、休日労働を含む単月の労働時間を100時間未満、直近2ヶ月から6ヶ月の平均労働を80時間までと設定。谷口氏は「厳しいとは思うが、違反すれば刑事罰となることに留意してほしい」と述べ、参加者には注意を促した。そのほか実務上の重要なポイントとして、パソコンのログ取得など「省令で定める客観的な方法」により、労働時間の状況の把握が必要になることについても紹介した。
違反した場合については是正勧告を受けることに加え、36(サブロク)協定を締結せずに法定労働時間を超える時間外労働をさせた場合などには6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課されることを説明。また、これらの刑事上のリスクに加えて民事上でも、労働時間を管理できていない場合は未払賃金請求のための訴訟や労働審判などにつながることについて述べた。悪質なケースでは、未払賃金に加えて同額の付加金を支払う「倍返し」に陥る可能性もあることから、谷口氏は「時間外労働の賃金については、リスクを回避するためにもしっかり払うべき。もちろん過労死についても留意してほしい」と強調した。