日本遺産で地方送客へ、文化財を「ストーリー」として発信

文化庁は20年までに100件認定
認知度向上へ「国際フォーラム」開催も

昨年10月には、広島県など4県による「鎮守府 横須賀・呉・佐世保・舞鶴」が近畿日本ツーリストに魅力発信事業を包括委託し、文化財の特別公開などをおこなう「日本遺産WEEK」を開催した  2016年の訪日外国人旅行者数は2400万人を超えたが、政府が掲げる20年の4000万人の目標に向けて、今後は地方への誘客が大きな課題となる。地方誘客に向けた施策として文化庁は、15年に新たな制度として「日本遺産」を創設。自治体などが取り上げる各地の有形無形の文化財群を、その歴史的・文化的背景とともに1つの「ストーリー」として認定するもので、世界に情報を発信することで外国人の誘客をめざしている。

 15年4月に第1弾として、京都府の「日本茶800年の歴史散歩」など18件を選定したのち、17年の第3弾までに計54件を認定(日本遺産の一覧)。単に文化財の歴史を紹介するだけでは「ストーリー」として認めず、「世代を超えて受け継がれている伝承や風習を踏まえていること」「中核には地域の魅力として発信する明確なテーマを設定し、その上で遺跡や祭りなど文化財にまつわるものを据えること」を条件としている。

 20年の東京五輪までには認定件数を100件程度にまで増やす計画で、認定した地域に対しては3年間、情報発信や調査研究、普及啓発などの事業に対して補助金を交付する。今年は第1弾の認定登録から3年が経過し、補助金の交付が終了する節目の年で、4年目以降に各地域が自立的な活動を続けていけるか否かは大きな課題となっている。

「日本遺産」のロゴマーク  同庁文化財記念物課課長補佐の田中康成氏によると、熊本県の「相良700年が生んだ保守と進取の文化~日本でもっとも豊かな隠れ里-人吉球磨~」など、旅行会社と連携してツアーを造成しているものもあるが、「継続的なものではなく単発の企画が多い」ことが課題。今後は各地域が育成しているストーリーの解説員などを活用した、さらなるツアーの造成が求められるという。

 なお、成功事例については「補助金の交付が終了していない現時点では、まだ具体的には挙げられない」というが、島根県の「津和野今昔~百景図を歩く~」に関して、ストーリーを映像やパネルで解説する「日本遺産センター」が設置されたことや、鳥取県の「六根清浄と六感治癒の地~日本一危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン泉~」で、地域に住む外国人による海外への情報発信が進められていることなどは、今後の自立的な活動につながる取り組みとして評価しているという。

 一方、文化庁が抱える課題として挙げられるのは日本遺産そのものの認知度の低さで、同庁は普及活動として「日本遺産大使」の任命や、セミナーなどの各種イベントに取り組んでいるところ。今年3月には趣旨や取り組みを海外に発信する初の取り組みとして、都内で「日本遺産国際フォーラム」を開催した。同フォーラムには認定地域の関係者のほか、欧米などのジャーナリストや著名人、留学生など400名超が参加。参加者は日本遺産に関する基調講演やパネルディスカッション、留学生による研究発表などに熱心に耳を傾けた。

 次ページからは、フォーラムのなかでおこなわれた「日本遺産による外国人の誘客」をテーマとしたパネルディスカッションの内容を紹介する。