前駐英大使、EU離脱の観光への影響語る-テロ対策を評価
一般社団法人の海外邦人安全協会はこのほど、2011年から今年にかけて駐英特命全権大使を務めた林景一氏を講師に招き、「英国のEU離脱、同国を巡る内外情勢と安全対策」と題した講演会を開催した。林氏は旅行業界や保険業界などから参加した約80名に対して、6月の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決定した英国の今後の治安などに関して見通しを説明するとともに、観光への影響についてはおおむね軽微との見方を示した。
林氏は英国の状況について、EU離脱決定直後こそ為替レートや株価が混乱したものの、その後は落ち着きを見せており、7月から9月までのGDPも前年比0.5%増とプラスを維持していることを説明。「現時点ではEUを離脱していないので当たり前のことだが、英国内で何かが起こっているわけではない」と述べるとともに、治安面についても「(04年のEU加盟で大量に流入した)ポーランド人などに対して一時的にヘイトクライムが増加しているが、今のところはそれが日本人に向くとは考えにくい」と語った。
欧州各国で相次いでいるテロ事件については、英国内ではロンドンで05年に発生した地下鉄同時爆破事件以降、大規模な事件は発生していないことを説明。また、7月に首相に就任したテリーザ・メイ氏が10年から16年まで内務大臣として治安維持に務めたことを評価し、「英国はテロの対象となりうる国だが今のところは未然に防いでいる。IRA(アイルランド共和国軍。対英テロ闘争を続けていた武装組織)との経験から、政府のテロ対策能力は高い」との見方を示した。
国内に300万人近くいると見られているイスラム教徒については「大多数は穏健な人々」と強調した。国外で過激派組織に参加したのち帰国した、ローンウルフ型テロリストによる事件が発生する可能性については「英国に限らず、潜在的な脅威については完全に否定することはできない」としながらも、「危なくて仕方がないという状況ではない」と説明。テロ活動の標的になりやすい場所には行かないなど、基本的な行動を心がけることでリスクを軽減できると呼びかけた。
そのほか、日本人観光客に認められている査証免除については「EU離脱後も変わらず、不利になることはないのでは」と語った。また、日本人の対英感情については「EU加盟国ではないからイメージが悪い、といったことがあるわけではないと思う」と述べ、「(訪英観光に)直接的な影響はないのでは」との見方を示した。ただし今後の離脱交渉が円満におこなわれなかった場合については、「(警備体制など)制度的な連携において支障をきたすかもしれない」との懸念を示し、観光にも間接的な影響が及ぶ可能性を示唆した。
同協会は、海外旅行者や海外に進出する日本企業などの安全確保に向けて、定期的にセミナーや講演会などを実施しており、今年度は講演会「フランスの内外情勢と安全対策」「リオ五輪を控えた現地の治安情勢とジカウイルスなどの感染症」などを開催。役員は大使経験者などからなり、理事には日本旅行業協会(JATA)事務局長の越智良典氏などが名を連ねる。