海外医療通信2016年11月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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・海外感染症流行情報2016年11月

1)WHOがジカウイルス流行に関する緊急事態を解除
WHOは2016年2月に、中南米などで流行を拡大させているジカウイルス感染症の流行に対して、国際的な公衆衛生上の緊急事態であることを宣言しました。その後もジカウイルス感染症は中南米で流行を続けており、8月からは東南アジアでも患者発生がみられていますが、WHOは11月18日にこの緊急事態を解除する旨を発表しました(WHO statement 2016-11-18)。これは流行が終息したことを意味するのではなく、今後、長期的な対策を実施するための対応です。日本の外務省も、「流行地域への妊婦の渡航は引き続き控えるように」との勧告を出しています(外務省海外安全HP 2016-11-22)。
なお、中南米で流行しているウイルスは、妊婦が感染すると胎児に小頭症などの健康障害をおこすことがあります。10月には東南アジアのタイでも、ジカウイルス感染にともなう小頭症の新生児が確認されましたが、今回、ベトナムでも同様の新生児が確認されています(WHO 2016-11-8)。東南アジアについても妊婦の渡航は控えるようにしましょう。

2)東アジアで鳥インフルエンザH5N6型の流行が拡大
中国では2014年以来、H5N6型の鳥インフルエンザウイルスに感染した患者が14人発生しており、うち6人が死亡しました(WHO 2016-11-17)。2016年11月には湖南省で47歳の女性が発病し死亡しています(FAO 2016-11-21)。このウイルスは11月から韓国でも拡大しており、野鳥などから検出されています(農林水産省HP 2016-11-16)。また、日本の鹿児島県でも11月中旬にツルが生息する池の水からH5N6型ウイルスが検出されました(農林水産省HP 2016-11-18)。北海道や秋田でも野鳥の感染を疑う事例が発生しており、今後、東アジア全域で警戒が必要です。

3)アジアでのデング熱流行状況
シンガポールでは2016年に1万2000人のデング熱患者が発生しています。昨年の40%増ですが、流行は次第に下火になっています(WHO西太平洋2016-11-15)。ベトナムでも今年は6万人以上の患者が発生しており、これは昨年の倍近い数です。
インドでもデング熱の患者数が増加しており、10月末までに北部のウッタル・プラデーシュ州では1万人の患者が発生しました(ProMed 2017-11-7)。ニューデリーではデング熱とともに、蚊に媒介されるチクングニア熱の患者も多発しており、その数は1万人近くにのぼっています(ProMed 2017-11-7)。

4)台湾での狂犬病の流行状況
台湾では1960年代に狂犬病が根絶されていましたが、最近になり動物の間で再燃がみられています。2013年以来、動物の狂犬病は全土で549例確認されており、はアナグマやハクビシンからの検出が多くなっています(ProMed 2016-11-22)。こうした感染動物に咬まれたヒトの事例も報告されていますが、ヒトで発病した例はありません。

5)アメリカ大陸でのチクングニア熱流行状況
2016年はアメリカ大陸全体でチクングニア熱の患者が31万人確認されています(米州保健機関 2016-11-11)。昨年同時期の59万人に比べると減少していますが、ブラジルでは2015年の1万人から今年は23万人と大きく増加しました。チクングニア熱はデング熱と同様にネッタイシマカに媒介される疾患です。昼間吸血する習性があるため、流行地域ではこの時間帯の防蚊対策を行ってください。
 
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2016年10月10日~2016年11月6日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2016.html

1)経口感染症:輸入例としてはコレラ1例、細菌性赤痢2例、腸・パラチフス5例、アメーバ赤痢7例、A型肝炎7例、E型肝炎2例が報告されています。腸・パラチフスは全例が南アジア(インド、パキスタンなど)での感染でした。A型肝炎はフィリピンが4例と多くなっています。

2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が21例で、前月(47例)より減少しました。感染国はインドネシアが5例、ベトナム4例、インド3例と多くなっています。前月まで今年の感染国として多かったフィリピンは2例と減少しています。なお、今年のデング熱累積患者数は312例で、昨年の同時期(253例)より大幅に増えています。チクングニア熱とマラリアは1例ずつ報告されおり、前者はインド、後者はガーナ/セネガルでの感染でした。

3)その他の感染症:麻疹の海外での感染例は5例で、感染国は前月と同様にインドネシアが4例と多くなっています。


・今月の海外医療トピックス
南北アメリカ大陸で麻疹、風疹の終息を保つために全ての旅行者に推奨すること

日本国内では2016年9月に関西国際空港で麻疹の集団感染事例があったことは記憶に新しいと思います。WHOは麻疹、風疹を根絶すべき疾患として様々なキャンペーンを展開していますが、2011年には、南北アメリカ大陸で終息宣言がなされ、表題のような推奨が発表されました。詳細は以下のサイトをご参照願いますが、南北アメリカ大陸へ行くすべての旅行者は、麻疹・風疹の接種証明か、抗体陽性を証明するための血液検査を行うべきと記載されています。
現在日本国内では麻疹ワクチンやMRワクチンの品不足で接種が難しいと思いますが、特に20-30歳代で麻疹・風疹の罹患歴のない方やワクチン接種回数が不十分な方は、せめて抗体検査だけでも行い免疫の有無を確認することが必要と考えます。 兼任講師 古賀才博
参考 http://www.who.int/ith/updates/paho_measles_042211.pdf?ua=1
 
・渡航者医療センターからのお知らせ

ジャムズネット東京の平成28年第2回勉強会(外部団体主催)
NPO法人・ジャムズネット東京は「アジアの医療事情」をテーマにした勉強会を下記の日程で開催します。ジャムズネット東京の会員以外の方でも参加できます。

・日時:2016年12月1日(木)午後7~9時 ・会場:東京しごとセンター 5Fセミナールーム(飯田橋)
・詳細はホームページをご参照ください。http://www.jamsnettokyo.org/news/2016/10/post-36.html
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