小笠原、来夏に「おがさわら丸」新造船、地方発需要獲得へ
東京・小笠原諸島の小笠原村観光局(OVTB)はこのほど、芝浦埠頭に停留中の小笠原海運の貨客船「おがさわら丸」の船内で、2015年度下期の旅行会社向けセミナーを開催した。本土と同諸島を結ぶ唯一の交通手段である同船のスケジュール決定にあわせて半年ごとに開催しているもので、この日は旅行会社の商品造成担当者など約50名が参加。OVTBは、来年7月に小笠原海運が同船の新造船を導入すること、25時間30分を要する片道の所要時間が新造船導入後は約24時間に短縮されることなどを紹介し、現在は全観光客の3割に満たない首都圏以外からの需要を獲得していく考えを示した。
太平洋上に浮かぶ小笠原諸島は、本土から南に1000キロメートル離れた位置にあり、温暖な気候や美しい海、11年にはUNESCOの世界自然遺産にも登録された独自の生態系などが特徴。東京と村役場のある父島との間は、定員769名のおがさわら丸が概ね週1便で運航しており、観光で訪問するには最低でも船中泊2泊を含む5泊6日が必要となる。プレゼンテーションをおこなったOVTB主事の橋本きよら氏は、冒頭で「出発日、旅行期間ともに自由度が限りなく低い」と前置きし、同諸島が国内旅行では極めて特殊なデスティネーションである旨を説明した。
しかし一方では「釣りやダイビングなど、目的性の高い観光客の堅い需要がある」と述べ、訪れた観光客の満足度が高いことを強調。また、60代以上のアクティブシニア層は比較的涼しい、ハイキングやホエールウォッチングなどに適した2月や3月の訪問が多いこと、若い層はマリンスポーツなどを目当てに夏期の訪問がに多いことを説明し、旅行会社に対しては「年間を通じてバランスよくお越しいただける観光地」とアピールした。
今後の観光客誘致に向けては、世界遺産登録後に増加した団体向けの旅行商品に加えて、おがさわら丸の乗船券と宿泊、現地でのアクティビティーなどをセットにした個人向け商品や、首都圏以外の全国各地発の商品の造成を促す。橋本氏は、高速化した新造船により現在は午前10時の東京発時刻を11時に遅らせることが可能になり、北は秋田、西は鳥取までに限られていた同日出発可能エリアがほぼ全国に拡大することを強調。「各地発の旅行商品は格段に造成しやすくなる」とアピールした。
小笠原海運によれば、新造船は高速化に加えて大型化し、定員は16.3%増の894名となる予定。現在のおがさわら丸の定員の7割を占める、いわゆる雑魚寝用の「2等」は約半分に減らし、代わりに2名用の船室や2段ベッドを大幅に増やすという。
この日のセミナーではそのほか、小笠原諸島専門の旅行会社で手配代行などをおこなっている小笠原ツーリストとナショナルランドの2社が参加。橋本氏は、新造船の就航後には大幅な混雑が予想されることから「2社がこれまで以上に重要な役割を果たす」と強調し、参加者に活用を促した。OVTBではそのほか、小笠原諸島へのツアー商品の9割を網羅するという比較検索サイト「小笠原ベストマッチ」の運営や、ツール作成および説明会のサポートなどで、今後も旅行会社を支援していくという。
なお、OVTBによれば、小笠原諸島への観光客数は10年までは概ね1万3000人から1万5000人程度で推移。しかし世界遺産に登録された11年には前年比61.0%増の2万1854人に急増し、12年にはさらに微増して2万2643人を記録している。その後は13年が1万9721人、14年が1万7938人と緩やかな現象が続いており、15年は台風の影響で微減する見込み。ただしOVTBでは、生態系への影響を抑える観点などから大幅な観光客数増は望んでおらず、主任の根岸康弘氏によれば「世界遺産登録以前よりは少し多い、年間1万6500人程度を維持していきたい」という。