現地レポート:エチオピア、アフリカ観光の新たなデスティネーション
世界遺産はアフリカ最多
歴史が支える独自の魅力
旅行会社は安全・衛生管理を
今回のツアーでは訪問できなかったが、上記のほかにもエチオピアには、同国最高峰のラスダッシェン山を中心とするシミエン国立公園や、多くの少数民族が暮らすオモ川下流域、独自の農業技術などにより文化的景観が評価されたコンソ族の居住地域など、さまざまな世界遺産が存在する。アフリカで世界遺産の登録数が9つに上るのは、エチオピア以外ではモロッコのみ。日本人にとってより身近な南アフリカ共和国やチュニジアが8つ、エジプトやタンザニアが7つ、ケニアが6つにとどまっていることを考えると、意外な多さといえる。
1974年の「ルーシー」発見以降も、北部のアファール盆地ではさらに古い時代の化石人骨が発見されていること、アフリカ最古の独立国と見なされていることなどからも、エチオピアには歴史や伝統文化に絡めたテーマを見つけやすい。観光開発への技術協力などをおこなっている国際協力機構(JICA)エチオピア事務所長の神公明氏も「歴史が魅力的。知れば知るほど面白い」と語る。長い歴史を持つエチオピア正教については、1月の「ティムカット」や9月の「マスカル」など、ツアーの造成につながる大祭も複数あり、教会や修道院に匹敵する観光資源となるだろう。
これらの観光資源に恵まれたエチオピアだが、ツアーを造成する際には課題もある。世界銀行の統計によれば、同国への旅行者数は年々拡大を続け、2013年には前年比14%増の約68万人にまで増加しているが、受入環境については充分な整備が進んでいない。ツアーを催行する旅行会社には、安全面や衛生面などに関する情報収集力や管理能力が求められる。
治安については、周囲の国々に比べれば良好といえる。外務省の渡航情報によれば、6月15日の時点でエリトリアおよびソマリアとの国境地帯に退避勧告、西部のソマリ州に渡航延期勧告が発出されているものの、そのほかの大部分は注意喚起にとどまっており、観光地の多くに大きな影響はないと考えられる。国内の2大宗教であるエチオピア正教とイスラム教についても、目立った対立は見られていない。
また、外国人観光客を狙った凶悪犯罪が比較的少ないことも特筆すべき点といえる。もっとも世界銀行の統計によれば、2013年の同国の1人あたり国民総所得(GNI)は470米ドルと日本の100分の1しかないため、人混みなどではスリやひったくりの類に用心する必要がある。今回のツアーでも最大の市場の「マルカート」については、その危険性が高いことから訪問せず、代わりに市の中心部から離れたシロメダ市場を訪問した。なお、駐日全権大使のマルコス・タクレ・リケ氏によれば「政府はセキュリティ強化に注力している」とのことで、街では要所要所で軍人などが警備にあたる姿が見られる。
現地の日本大使館によれば「衛生水準は低くインフラ整備も不十分」であるため、滞在中の飲食については催行する側が注意を払う必要がある。水道水については、シャワーや歯磨きなどに使用する程度なら問題はないとの見方が一般的だが、飲用には適しておらず、レストランやバーでも飲み物は氷抜きで注文すべきだろう。食事については、牛や山羊の生肉を食べる習慣があり、宴会などではご馳走として供されるが、非加熱の生鮮食品はできるだけ避けた方がいい。
このような環境にあることから、ツアーで利用するホテルやレストランの選定には注意を払う必要がある。ただし主要な都市や観光地には、欧米からの旅行者も利用するホテルやレストランが複数あり、選択肢は必ずしも少なくはない。現地の最新事情に明るいランドオペレーターなどとの協力により、リスクを回避することは大いに可能だろう。