日本版DMOで観光まちづくり、観光データ活用へ、自主財源確保も
データ活用で戦略立案、官民協同でDMO立ち上げへ
自主財源確保を重視、効果測定課題に
国内でのDMO的取り組み
自主財源の確保が鍵
井手氏は、NPO、社団法人、株式会社など、国内で現在DMO的な機能を担う組織を紹介した。例えば長崎県五島列島の小値賀町では、観光協会、自然学校、民泊組織の3者合併により、2007年にNPO法人おぢかアイランドツーリズムが誕生。島の環境を活かした漁業や農業、「普通のおうちに家族のように泊めてもらう」民泊を商品化し、「一緒に食事をつくり、釣りをし、乳搾りをする」といった体験を提供している。
運営は株式会社の小値賀観光まちづくり公社との連携で窓口を一本化し、コスト管理や安全管理、営業活動を展開。営業先は主に小中学校やJAなどの団体で、島の受入民家は50軒を数える。
また、独自のピーアール事業と着地型旅行業で収益を得る大分県の一般社団法人日田市観光協会や、「道の駅」を運営しながらランドオペレーターとして機能する千葉県南房総の株式会社とみうら、「産業観光プラザすみだまち処」において物販業や飲食店の収益を上げながら、非収益事業として観光案内コーナーを設置する墨田区観光協会なども、補助金に頼らず自主事業を展開しながらDMOの役割を担う組織だという。小値賀町と日田市では、地域外からの人材登用も共通する特徴とした。井手氏自身もNPO法人イデア九州・アジアを立ち上げ、飲食店との協同イベントなどを地域の観光振興事業として展開している。
これらの議論を踏まえた上で、高橋氏は神戸市で実施した老舗帽子店での体験ツアーが成功した例を挙げ、「神戸市は個別の店舗と付き合うというブレークスルーを投じた。このような試みを他の行政機関でも可能とする制度が必要。観光施策では必ずしも公平性を求められないことを条例などで示すとよい」と提言。「地域主導で戦略を立てることが大事。お金がないからとあきらめるのではなく、欧米のDMOの財源例を参考に」と鼓舞した。
また、井手氏は今後の課題として、効果測定の重要性を指摘。「たとえば行政ではパンフレットを5万部制作しました、という時点で満足しているのが現状で、どこでどのように配布されてどれだけ効果があったか不明。パンフレットの一部にでも有料広告を載せて事業性が生じると、効果測定も必須となる」と語った。大社氏もこれを受け、行政でも民間企業のノウハウが有効との考えを示しながら、あらためてDMOの概念や機能を地域に導入する必要を強調した。
このほか、セミナーでは事業構想大学院大学で地域活性を専門とする中嶋氏が最後に登壇。社会人対象の同大学院で2015年4月から開始する「観光まちづくり(日本版DMO)」プロジェクト研究について紹介した。このプロジェクトは地域での実践を通したDMO構築を目標としており、大社氏ほか20名が講師を務める予定だ。