2012年海外旅行市場の背景、中長期成長は警鐘も-JTBF旅行動向シンポジウム
財団法人日本交通公社(JTBF)が昨年12月下旬に開催した旅行動向シンポジウムで、主任研究員の黒須宏志氏は2012年の海外旅行者数を2011年見込み値の2.7%増にあたる1740万人と予想した。日本経済と旅行者数の相関および航空座席数を根拠にしたものだが、その背景である2011年の動向も影響を与える要因であり、今後の海外旅行市場を読むカギとなる。黒須氏が2012年の予測発表を前に説明した最新の市場動向からは、主に3つのキーワードがうかがえた。
震災後に見えた「質の変化」
オンライン化とFIT化の進行
東日本大震災は日本の旅行市場に大きな影響を与えたが、海外旅行についていえば、9.11やSARSといった世界規模の危機時ほどのインパクトは少なかった。回復も早く、8月には海外旅行者数は2ケタ近くの伸び率を示し、単月で過去最高を記録したほどだ。
ただし、黒須氏は「量よりも真剣に捉らえなくてはいけないのは質の変化」だと指摘する。その1つが「オンラインシフト」。「震災を契機に一気に加速した」と話す。2010年のデータしかないが、海外旅行のオンライン比率は40%を超えていることを示し、「2011年はさらに急角度であがっていく」と予想する。
とはいえ、2010年の予約状況を2007年時と比較すると、「旅行会社の店頭・電話」は42%で2007年よりも14ポイント減少しているが、「旅行会社のオンライン」の割合は41%で10ポイント増。一方、「サプライヤーのウェブサイト経由」は15%で07年より5ポイント増に留まっている。旅行会社のオンラインにはオンライントラベルエージェントも含まれているが、海外旅行の予約のうち83%は旅行会社経由であることが示された。
今後の推移について黒須氏は、オンライン化が進んでいるアメリカの状況を説明。アメリカでは旅行売上の60%がオンライン経由だが、「オンラインの進むところでは、ヒューマンタッチのよさが見直されつつある」といい「後を進むものは先を見ることができる。がむしゃらに追いつこうとするのではなく、リアルの持つヒューマンタッチの強みを生かして、イールドをあげていくことが大切だ」とアドバイスする。
もうひとつ、黒須氏が指摘するのが、FIT化だ。あくまで仮説とするが、特にシニアのパッケージ利用の多かったヨーロッパで「ついにFIT化がすすんでいるのでは」と話す。震災後、旅行会社のブランド商品の人数が出国者数の伸び率を下回っているが、航空会社のペックス運賃や間際予約は好調に推移。また、レイルヨーロッパの日本での業績が好調であることも、欧州のFIT化進行の仮説を出す理由だ。