通訳案内士、東電に賠償請求、対象期間の拡大訴え
東日本大震災による原発事故被災者支援弁護団は12月5日、通訳案内士15名の代理として、原子力損害賠償紛争解決センターに和解仲介の申立をおこない、同日記者会見で発表した。
原発事故の風評被害で外国人観光客の減少が続く中、東京電力に対し、ツアーの予約解約や新規予約の激減などで通訳案内士が受けた損害の賠償を求める考え。請求総額は約2750万円とした。事故がなかった場合の見込み収入と比較して算出した減収分を請求するとともに、東電が賠償対象外とする、5月以降のツアーの予約解約についても賠償を求めていく。
東電は8月に策定された中間指針に基づき、外国人観光客に関する賠償について、日本全国の観光業を対象に、原発事故前に予約があり、5月末までに通常の解約率を上回る解約により発生した減収を損害と認定している。これに対し、弁護団は原発事故収束の目処が立たず、諸外国で渡航自粛勧告が継続しツアーの解約が続く中、時期の限定範囲が狭すぎると指摘。
また、事故の収束を期待して催行を保留したことで5月末以降の解約事例も多いという。今回の請求では10月末、もしくは11月末までの期間で賠償を求めた。さらに、新規予約の手控えに基づく損害について具体的な指針が示されていない点、請求の手続き方法が通訳案内士の実態と合っていない点も問題点としてあげた。
弁護団によると、東電からは代理人を通じて、中間指針で明示された類型以外の損害について「中間指針では本件事故との間に相当因果関係が認められる損害とされていない」ため、「原則として相当因果関係が認められていないと考えている」旨の回答があったという。
これに対し弁護団は、中間指針は被害に迅速に対応するため、指針が出せるものから順次提示していく性格のものだとし、「書かれていないから損害にならないとは言えない」と批判。弁護団長の丸山輝久氏も「東京電力との間では因果関係の問題について相当シビアな論争が繰り返されると思う」と述べ、「被害にあった皆様に対し全力を尽くしていきたい」と考えを示した。
弁護団では10月から団員30名による通訳案内士対応チームを立ちあげて対応しており、すでに80名の通訳案内士から相談を受けている。今回を第1回の申立とし、次回は1月末ころに和解仲介の申立をおこなう予定だ。
▽通訳案内士の被害甚大-FIT回復傾向も団体は厳しく
会見には、申立人として英語通訳案内士の井ノ口久利氏とフランス語通訳案内士の長野智行氏、業界団体として全国日本通訳案内士連盟理事長の山田澄子氏が出席した。井ノ口氏によると、同氏が担当していたアメリカの旅行会社は、参加者が集まらないため現在訪日ツアーの募集を中止しており、仕事が無い状況が続いている。井ノ口氏は東電と政府に対し「一刻も早く事態を収束させ、収束宣言を世界に出して欲しい」と訴えた。
また、長野氏によると、震災から11月まで20から30人規模の団体ツアーが11本107日分あったが、全てキャンセルとなった。FITからの新規予約も多少はあるが「フランスの団体予約はゼロ。年の瀬が近づくが、全く希望の光が見えていない。来年もこの傾向が続くのでは」と懸念を示した。貯金を切り崩したりアルバイトをしながら回復を待つ通訳案内士もいるが、「見切りをつけて転職を検討する者もいる」という。
こうした中、山田氏は「通訳案内士はインバウンドの最前線で働いてきた。この状況は職業として存亡の危機」と危機感を募らせる。山田氏によると、外国人観光客はFIT層は回復基調にあるが、団体は激減。韓国や中国からの訪日旅行ツアーは戻りつつあるが、安価なものが多く、資格を持たない在日中国人、韓国人がガイドをするケースが多い。同氏は「観光立国実現に向け、質の高いガイドの存在は重要」とし、通訳案内士の大切さを改めて認識するべきとの考えを示した。