今の若者が求める海外教育旅行、震災後の意義-海外修学旅行セミナー
海外修学旅行で感激したこと-英語でコミュニケートできた喜び
具体的に、海外修学旅行では何が期待されているだろうか。磯貝氏は、人が旅行に期待することとして、時間を楽しむ「遊び」、知り、感じ取る「学び」、同行者との絆の「結び」の3つをあげつつ、海外修学旅行については「ともすると『学び』だけに執着するケースがある」と警鐘を鳴らす。
例えば、海外修学旅行の黎明期である10数年前では、ハワイの修学旅行でジャージを着用し、ビーチの掃除をさせられたケースが見受けられた。その生徒は「もう2度とハワイに行くか」と思ったが、大人になって機会があって行ってみると「こんなにいいところだったのか」と驚くことがあるのだという。このほか、国内でもエコツーリズムや農村体験などが流行っているが、「この手の話の成功を聞いたことがない」と磯貝氏。「楽しくしながら、人と人との関係で何かを学ぶということを忘れているのでは」という。
また、学生に海外教育旅行で感激したことをアンケートで聞くと、「英語が通じたうれしさ」「コミュニケートできた喜び」が多く上がるという。習ったばかりのちょっとした英語が通じると自信になり、外国人と会話ができた喜びは非常に大きい。磯貝氏は「今の若い人のコミュニケーションについてはいろいろと言われているが、ケータイを通じて1つのコミュニティを作っており、感性はかつての若者より強いものがあるのではないか」と、若い世代にとってのコミュニケーションの重要性を示唆する。
また、「自然」「ホームステイ」もキーワードとしてあがっている。現地の生活に入り込み、本来のその土地の生活に裏付けされた文化を体験することにも喜びを感じる傾向があるという。
偶然に勝るものはない
いかに現地の人との触れ合いを入れるか
磯貝氏は旅行先で感動するものは「人との出会い」と断言する。例えば、道でたまたま話しかけてきたおばちゃんとの会話が盛り上がったとしたら、どんなにきれいな景色や面白い物産を紹介しても、その時の感動には勝てないという。「その偶然を作るのは人。旅行では人とのつながりが重要」とし、「これからの修学旅行に求められるのは、いかにして現地の人々との触れ合いができるのか、それをどのようにうまく作り出すか」だと話す。
その人間関係をどこで見いだすかだが、例えば産業観光がある。「今、若い人が地方へ行き、例えば古い紙すき工場などで手伝う人が増えている」という。特に「資本主義、効率化の副産物である社会問題に今の若い人は敏感に反応する。労働と人間の手、その結びつきに関心を持ち始めている」とし、「これまでは姿の見えないところで国際競争に勝つことをあおられていたが、これからは目で見える形の労働を見たいのだと思う」と推し量る。「そういう意味では、例えば震災後、ドイツが速やかに脱原発を決断したバッググランドといったテーマを盛り込むことも、今の学生が求める将来の職業観につながるかもしれない」とアドバイスする。
磯貝氏は、「これからの生き方を考える上で、海外の人々の生きざまに触れることに意義がある。海外教育旅行を続けてほしいところはそこにある」とし、「大げさかもしれないが、学生の柔らかい頭で海外を見ることが、震災後の日本の社会を変革していく起爆剤になる、という意義もあると思う」とも話した。