今の若者が求める海外教育旅行、震災後の意義-海外修学旅行セミナー
教育旅行には「大義名分」が必要だ。社会動向に加え、実際に旅行をする生徒の意識ともリンクする必要がある。さらに3月11日に発生した東日本大震災が、人の価値観に大きな影響を与えた。このようななか、今後の教育旅行に求められるものとして、ツーリズム・マーケティング研究所(JTM)主任研究員の磯貝政弘氏は「これからの生き方を考える上で、海外の人々の生き様に触れることに意義がある」とする。今回はトラベルビジョン企画の海外修学旅行セミナーでの同氏の講演から、今の若者の旅行の実態と、彼らの求める海外教育旅行についてまとめた。これは、若者のレジャーの海外旅行促進にも参考になる。
若者の旅行離れはデマでしかない
このところ、「若者が旅行に行かない」「外の世界に関心がない」と言われているが、磯貝氏は「結論からいえば、決してそんなことはない。明らかに人口の問題」と断言する。日本人出国者数を2010年と、リーマンショックや新型インフルエンザなど出国者数に影響を与える要素がなかった2007年で比較すると、若者世代の20歳から29歳は2010年の方が少ないが、出国率はほぼ同じで男性が2007年比0.8ポイント減の13.5%、女性が1.8ポイント増の24.8%。
2010年の出国者数を年代別で見ると、20代の2695人に対して50代が2792人、60代が2507人で、若者世代はシニア層とそん色なく、60代よりも多い。特に20代は業務性渡航の少ない女性の伸びが顕著で、レジャー需要が旺盛であることをうかがわせる。
JTBが毎年実施する海外旅行志向実態調査によると、若い人ほど海外旅行へ行きたい気分が強いようだ。「1年以内に行く予定」とする人は、20代の女性が最も多く、次いで20代男性で、双方とも10%を超えている。磯貝氏は「若者の旅行離れはデマでしかない。機会があればどんどん行きたいと思っている」と話す。
学生は旅行での人間関係の構築を重視
では、今の若者世代の海外旅行経験はどのようなものか。JTMの同調査によると、15歳から19歳の40.4%が小学校入学前に初海外旅行をしており、その機会は家族旅行が当たり前になっている。ただし、ここでの思い出は例えばハワイなら「アラモアナショッピングセンターのフードコートで家族と楽しい時間を過ごした」という内容が多く、「本質的には海外旅行に行っていない」と説明。最も多いのが中学・高校時代(42.3%)で、修学旅行がきっかけになっていることは間違いない。だからこそ磯貝氏は「何を学び、何を持って帰ってくるかという課題が出てくる」という。
その答えとして、海外旅行に求めるものがポイントになりそうだ。「自分にとって海外旅行とは何か」をアンケートで聞くと、すべての年代では「リフレッシュ」が最も多い回答となったが、30歳未満の若い世代に限ると2番目が「広がる」となり、磯貝氏は「見識や知識を広めるということ」と説明する。続く3番目は「機会」で、「何らかの形で新しいステップの機会を求めている」と推察。以降、「日常」「離れる」「見つめ直す」が続き、「日常の物足りなさや不満を解消したいのだろう」と指摘する。
一方、学生を対象に旅行(国内外問わず)で印象的だったことを聞くと、「温泉に行った後、なじみの居酒屋チェーンで友人同士とわいわい騒いだこと」というような回答が多いという。つまり、旅行では仲間内の人間関係を作り上げることが大切になっている。修学旅行では以前は10畳ほどの大部屋に大人数で寝て、いたずらから人間関係の構築が始まったが、海外旅行ではホテルのツインルームが多い。そこで磯貝氏は、「ホテルではなく例えば大きなテントに多くの2段ベッドを入れて宿泊すれば、コミュニケーションがとりやすくなり、新たな可能性が見えるかもしれない」との考えを提案する。