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海外旅行市場拡大へのヒント、2010年から読み解く-エイビーロード調査

  • 2011年7月27日

 エイビーロード・リサーチセンターは7月26日、旅行会社や観光局、航空会社を対象に「エイビーロード海外旅行セミナー2011」を開催した。「エイビーロード海外旅行調査2011」を元に、2010年の海外旅行動向を解説したもの。実際に海外に観光旅行をした消費者を対象とした調査であるため、旅行選択のプロセスや旅行先の評価といったレジャー需要の動向を、旅行者側から推し量ることができるのが特徴だ。エイビーロード・リサーチ・センターのセンター長である稲垣昌宏氏は冒頭、自身が阪神淡路大震災時で被災し、約2ヶ月、自宅とは別の場所に住んだ経験に触れ、「ストレスがたまり、1ヶ月後にバリ島へ旅行に行った。こういうときこそ旅行が大事であることを身を持って感じている。ぜひ本日のデータを、日本の元気を盛り上げるために使ってほしい」と語り、発表をはじめた。

エイビーロード海外旅行調査2011
調査期間:2011年3月29日~4月1日
調査方法:インターネット調査
対象:2010年の海外旅行経験者、レジャー渡航のみ
調査集計数:5094人(関東、関西、東海の3地域から抽出)
集計:調査結果はレジャー渡航者構成比に換算
※複数回海外旅行をした人は、最後の旅行先で回答。そのため、回答者の海外旅行時期は市場構造に比べて年後半に若干、偏りがあるとしている


2010年の海外旅行に影響した要因

エイビーロード・リサーチ・センター センター長の稲垣昌宏氏

 集計では法務省が発表した2010年渡航者数の速報値を元に、回答者の構成比を換算しており、女性が51.1%(前年:49.1%)、年齢別では50代が41.4%(同:41.4%)と増加している。また稲垣氏は2010年に起こった海外旅行市場での出来事のうち、(1)成田空港発着枠拡大/3月、(2)中国船拿捕/9月、(3)羽田空港国際化/11月、(4)韓国・延坪島砲撃/11月、(5)ニュージーランド地震/2011年2月の5つをあげ、これらと女性の50代の増加が、2010年の海外旅行動向に影響を与えた要因だと話す。

 例えば、旅行先では近距離が53.7%(同:54.4%)、中距離が34.0%(同:35.4%)と前年より減少しているのに対し、遠距離が36.6%(同:35.3%)と微増。これは、50代女性の増加により彼女が好む長距離が増えたことに加え、中国や韓国の事件が影響し、近距離が減少したのではと推察する。

 方面別でも影響が表れており、増減率の伸び1位はイタリアと台湾(各0.8%増)で、イタリアは3位のスペイン(0.7%増)とともに50代女性の好む方面。また、台湾は中国と韓国の需要を吸収したと見る。また、4位はその他中近東・アフリカ(0.5%増)、6位はモロッコ(0.4%増)で、これらは成田発着枠拡大により特に中東路線が増加したことの影響だとする。一方、減少幅が大きかった1位は韓国(2.4%減)、3位に上海(0.9%減)となった。

 同行者数は2人が51.6%(前年:52.9%)で、平均人数は3.5人(同:3.3人)と微増。稲垣氏は景気回復により、インセンティブなどの団体が増加した可能性を示す。また、同行者数は2人が約半数であるが、「逆に言うと半数は2人以外」と指摘。「パッケージの料金は2人1室での表示が多いが、すぐに分かるのは約半分だけ。パンフレットではバラエティのある金額を表示すれば、販売に繋がりやすいのでは」と提案した。


旅行費用、現地支出は約2万円増加

カナダなど北米を中心とした長距離方面の旅行日数が増えている

 旅行日数は4日間が18.9%(前年:19.9%)で最多だが、前年より減少。短期、中期間は3日以下(15.6%/前年:14.9%)以外、減少しているが、長期間は8日から9日が14.4%(同:14.2%)、10日から14日が11.4%(同:10.2%)、15日以上が4.5%(同:3.8%)といずれも増加しており、平均日数も7.2日(同:6.8日)と伸びている。方面別では、アメリカ南部が14.1日(同:10日)、カナダが13.1日(同:9.4日)と、北米が強い。

 旅行の支払額は長距離方面が増えたため、増加傾向にある。旅行費用(国内支払額)は17.2万円(同:16.1万円)、現地支払額が14.3万円(同:13.5万円)で、総支払額は31.5万円(同:29.6万円)と、1.9万円増加。旅行費用の平均価格帯は5万から10万円未満が27.0%(同:25.8%)と最多となり、短距離方面の旅行の減少により、5万円未満が10.0%(同:15.4%)と減った以外は、いずれの価格でも前年を上回った。

 一方、現地支払額では、買い物代が5.4万円(同:5.7万円)、食事代が2.5万円(同:2.7万円)、観光やアクティビティ代が2.6万円(同:2.9万円)と減少しており、稲垣氏は「何が増えたかわからない。FIT率が高くなっているので、現地ホテル費用が増えている可能性がある」と言及。とはいえ、「消費者側の財布が大きくなった」と、旅行での消費意欲が旺盛になっていることを指摘した。


間際化は一旦止まるも、今後の動きに要注意

LCC就航地は今後、FIT化が進むと予想

 旅行の目的は「名所・旧跡を観光する」が50.5%と最も多く、「おいしいものを食べる」が47.2%、「ショッピングをする」が44.7%と続く。4位には「のんびり休息する」が34.7%とあり、稲垣氏は「震災の影響でのんびりしたいというニーズが多い。リゾートでののんびり滞在は日本人に定着しないといわれていたが、来年は伸びる可能性がある」と注目する。

 旅行の検討・申し込み時期だが、思い立った時期の平均は4.6ヶ月前(同:4.3ヶ月前)、検討開始時期は3.0ヶ月前(同:2.8ヶ月前)、申し込み時期は平均2.3ヶ月前(同:2.1ヶ月前)と早まった。間際化が一旦、落ち着いた形になったが、「震災後にネット化と間際化が加速した可能性があり、注視する必要がある」という。パッケージツアーの利用は61.9%(同:64.3%)と減少し、この数年減少していたFIT化が進行。特に関東では4割となった。

 パッケージツアー比率が高いのはトルコで89.0%、その他中東・アフリカが80.3%、グアム・サイパンの80.0%で、比率が低いのはインドネシア都市の15.4%、アメリカ東部の24.3%、プーケット以外のタイビーチの25.0%。オーストラリアは今年初めて5割を下回り、LCCの直販する安価な運賃の利用でFIT化が進んだと推測。「今後、LCCが就航する旅行先は、FITが増加するとみられる」と予想する。年代別では50代や女性の18歳から29歳、東海在住者にはパッケージツアーが人気だが、30代はどちらでもOKで、40代はFITを好む。稲垣氏は「FIT率が高い40代がシニアになった時にFITを続けるかどうかは微妙だ」と、今後の対策の必要性を示唆した。


総合満足度はシンガポールが1位

SMAP出演のCMで露出されたマリーナ・ベイ・サンズが脚光に

 旅行先の満足度では、全渡航先の平均は91.8%。1位はシンガポールで99.3%(同:89.5%)と、前年から10ポイント近く伸びた。特徴的なのは「期待していなかったが、行ってみたらよかった」が23.3%(同:22.0%)と高いこと。稲垣氏は「マリーナベイサンズがあまり日本で宣伝されなかったため詳細が知られておらず、旅行で初めてよく知ったということもある」と指摘。最近は、人気タレントSMAPが出演するCMのロケ地となっており、エイビーロードでのシンガポールツアーの問い合わせのほぼ半数が、マリーナベイサンズ指定の商品であるほど注目が高まっている。シンガポールはこのほか、観光・観賞、食事、買い物、治安・衛生の項目でも1位となった。

 一方、2位のドイツは98.2%(同:96.9%)で、「期待通りだった」が85.9%(同:87.5%)と高い。フランスも同様の傾向で、特に観光・観賞では91.9%が「期待通りだった」と回答。稲垣氏は「もともと期待され、それに応えていることがすごい」と評価する。また、治安・衛生の分野で東ヨーロッパが「期待していなかったが、行ってみたらよかった」が39.3%、トルコも39.9%で、ナイトライフではイタリアが36.0%と高いことを指摘し、「『期待してなかったけど、行ってみたらよかった』が高い分野はもう少し消費者にアピールしても良いのでは」と提案した。


2011年の海外旅行意向、震災影響は約4%
旅行方面に2010年の傾向が継続

 2011年の海外旅行の意向率は79.2%(同:85.5%)で、前年よりも減少している。今年、海外旅行に行くつもりはないとの回答者のうち、東日本大震災を理由とした人は20.4%。全体の約4.2%に過ぎず、稲垣氏は「震災の影響は軽微」とする。

 行きたい国・地域は、1位がイタリアの37.7%(同:37.2%)、2位がフランスの31.7%(同:33.2%)で、50代女性が好む長距離方面が上位で、稲垣氏は「2010年に調子のいいところがそのまま来ている」と説明。2011年の夏休み期間の問い合わせの多い旅行先でも、3位にパリ、8位にローマ、バルセロナ、10位にトルコと、長距離方面が入っている。