東北観光復興へ(2):集客の現状と課題-送り手・受け手の意思疎通を
日本三景のひとつ宮城県松島市では、人気の観光船が定期運航を再開している。世界遺産入りが確実視される岩手県平泉町の文化遺産は地震の被害がなく、いつも通りに観光ができる態勢にある。観光客は戻りつつあるが、本来なら新緑の美しいこのピーク期は修学旅行生をはじめ、もっと多くの人でにぎわっているはずだ。震災当初、各観光地ではプロモーションをストップしていたが、再開しはじめる動きもあり、今後の集客に期待がかかる。日本旅行業協会(JATA)が6月5日に実施した東北視察で、訪問した地域の取り組みや、視察中に実施された東北観光関係者との意見交換会から、国内旅行、インバウンドの今後の観光復興に求められるものを考える。
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観光復興への動き始まる
各観光地では観光復興に向けた取り組みを開始している。仙台市では6月6日に「仙台経済の回復を目指す当面の取り組み」として、「賑わいの創出による観光業・小売業の支援」を打ち出した。東北の夏祭りを集めた「六魂祭」の開催や、伊達武将隊による全国観光キャラバンなどを通し、震災に立ち向かう姿をアピールして観光客誘致をはかるとしている。
一方、インバウンドは国際コンベンションの誘致を積極化し、2015年の国連防災世界会議や2012年の世界ツーリズム協議会などの誘致に力を入れる。また、観光の現状を伝えるメールマガジンも開始した。仙台市経済局国際経済・観光部参事兼国際プロモーション課長の嶺岸浩友氏によると、被災地から直接海外に発信する情報が少ないことから、この取り組みが海外のメディアに取り上げられたという。
岩手県平泉町も、プロモーションを再開した。震災直後はプロモーションを控えていたが、平泉の文化遺産について5月下旬に世界遺産登録に関する勧告を受けたことを契機に、誘客を積極化する方針に変更した。「沿岸の被災地域に配慮しながら、内陸部から経済を波及できるようにがんばろうという意識で取り組む」(平泉町観光商工課・菅原氏)という。
すでに5月には、ボランティア目的での訪問客が増えたことから、鳴子温泉のある大崎市の道の駅でプロモーションを実施。6月中は週末にキャラバン隊を派遣し、首都圏中心に観光キャンペーンを展開する。さらに、世界遺産登録が正式決定された場合は、一関市や奥州市、岩手県南広域振興局と連携で記念イベントを実施する予定で、これを契機にさらなる誘客をはかる考えだ。
送客側からの働きかけも必要
ただし、松島観光協会によると、松島では現在のところ、積極的なプロモーションの予定はない。松島では7月16日から21日には日本三景のイベント、8月6日から8日には七夕のイベントとして「灯道」の実施を決定した。これにあわせた観光客の訪問を期待するが、誘客の仕掛けについては「周囲の状況を考えると、積極的に来てくださいと言いきれない」(松島島巡り観光船企業組合理事・色川氏)という、観光関係者の思いがある。
近隣には石巻市や東松島市など津波の被害の大きいエリアがあり、周辺のホテルは支援隊の利用で満室状態が続く。そのため、観光船の運航状況や観光情報をホームページで発信し、それを見た観光客の訪問を期待しているという。松島観光協会も、ホームページ上で観光地や宿泊施設などの復興情報を発信しているが、それにとどまっている状況だ。
しかし、松島の観光地は、土産物や軽食を売る観光客向けの店が一部、閉まっているが、遊覧船のほか五大堂、瑞巌寺も観光が可能であり、営業を継続し、観光地の魅力を保つためには収入を得る必要がある。地域経済への貢献という意味でも重要だ。当事者が積極的に誘客を言い出せない状況にある場合は、被災地域外の送客側からアプローチすることも必要だ。受入側が懸念する状況にあっても観光客に楽しんでもらえる方法があるか、一緒に考えていく必要があるだろう。その際は、現地の状況が日々変化していることから、綿密なコミュニケーションが欠かせない。
インバウンドの対策
海外が求める「安全」の明示、情報の発信への課題
各国大使館や外国航空会社、各国政府観光局の関係者が参加した今回のJATA東北視察では、観光地のみならず津波の被災地の車中視察も組み込まれていた。訪れたのは被害が大きい石巻市の工業港とその周辺。東北自動車道をおりて沿岸部へ近づくにつれ、浸水した田んぼやつぶれた自動車、倒壊した家屋などが現れる。写真や映像で見るのとは違う衝撃を受けたようで、車内はしばらく静かになったほどだ。外国からの参加者からは、自然災害の脅威を学ぶことを目的に被災地の一部を残すことを提案する意見も聞かれた。
視察後の現地観光関係者との意見交換会では、風評被害を払拭したい東北側と、海外の見方を知る参加者側との認識の相違が見られた。東北観光推進機構は、地震と津波の被害を受けた場所は限定的であり、被災していない観光地の方が多く、通常観光ができることをアピールしたが、参加者からは「海外では放射能など、怖いことが起こっていると思われている。これに対して、どのように情報を出そうとしているのか」(インド大使館ミッションチーフ代理・パンダ氏)、「欧州各国が参加会議に参加した際、日本から発する地震や原発の情報が少なすぎるという話があった。海外では『東北』はなく『日本』というくくりになる」(ビジット・フィンランド日本代表・能登氏)という指摘があった。
東北観光推進機構は、放射能関係のデータは国の専門セクションが出していると回答したが、出席者からは観光地とリンクした情報提供を求める声が多い。会議後にも「地震と津波、放射能はパッケージ。全部の安全が認識される必要がある」(チャイナエアライン日本地区マーケティング本部長・藤井氏)という意見も聞かれた。このうち、目視で確認できない放射能については、観光地や交通機関などに線量計を取り付けて、誰もが常に見られるようにするのも一案だろう。
また、日本の現状を正しく分かってもらうために「現地のメディアを招聘してほしい。現地で報道する側も、震災のダメージの印象が強い」(ガルーダ・インドネシア航空マーケティングマネージャー・児玉氏)という提案もあった。今後のインバウンド誘客にはこうした海外の視点を意識した施策も必要だ。
今回のJATAの視察旅行は、参加者に東北観光の現状を本国へ正しく報告してもらうのが目的で、JATA理事長の柴田氏も「東北の観光の現状を視察してもらった上で、情報発信についてのよい反省材料も得られた」と、成果を評価。課題については、JATAとして努力していく意思を示した。