ニュージーランド、震災後の市場回復への挑戦
-TRENZレポートその1

  • 2011年6月8日
TRENZ会場。多くの人で賑わうTNZブース

 多くの犠牲者を出したクライストチャーチ地震の発生から3ヶ月が過ぎた。MICE需要の落ち込みなど長期的な懸念はあるものの、ニュージーランドの旅行市場は早くも復調の兆しを見せている。5月22日から南島のクィーンズタウンで開催されたTRENZ(Travel Rendezvous New Zealand)の会期中には、同国の首相兼観光大臣ジョン・キー氏をはじめとする旅行業界のキーパーソンたちが、この国が既に次の局面へと動きだしていることをアピールした。

震災の打撃をカバーするプラスの要因

今後の見通しを話す、ニュージーランド首相兼観光大臣のジョン・キー氏

 5月25日、TRENZ会場を訪れた首相兼観光大臣のキー氏は、「2011年は我々旅行業界にとって、挑戦の年だ」と述べた。南島観光のハブであったクライストチャーチは今も震災の爪跡を残しており、完全な復興には数年を要すると言われている。クライストチャーチの現状について詳細は後日紹介するが、地震の影響以外にも世界的な金融危機、東日本大震災による日本市場の落ち込みなど、旅行業界の懸念材料は多い。

 にもかかわらず、首相が「試練」ではなく「挑戦」という言葉を使ったのは、そうしたマイナス要因をカバーするプラスの素材も揃っているからにほかならない。なかでも首相が「旅行需要回復の大きなチャンス」と位置づけるのが、今年9月9日から10月23日まで開催される「ラグビー・ワールドカップ2011」だ。世界最強のラグビーチーム「オールブラックス」を擁する二ュージーランドにとっては、国をあげての大イベントであり、期間中、約8万5000人の海外からの旅行者が見込まれている。また、W杯開催に合わせて国内各都市では、ニュージーランドの魅力を紹介するイベント「リアル・ニュージーランド・フェスティバル」を開催し、ラグビーファンが各都市で試合観戦しながら、国内旅行を楽しめるように工夫をしている。

 また、今年の春先にアジア及び北米との路線が続々と就航したことも大きい。1月にはチャイナエアライン(CI)の台北/ブリスベン・オークランド線、3月にジェットスター(JQ)がシンガポール/オークランド線、4月にエア・アジアX(AK)がクアラルンプール/クライストチャーチ線、中国南方航空(CZ)が広州/オークランド線を就航。さらにニュージーランド航空(NZ)は、日本、中国、タイ、マレーシアの路線において、ユナイテッド航空(UA)はオークランド/ヒューストン線において座席数増加の計画もあり、各国からのニュージーランドへの旅行需要の高まりを示している。

オーストラリア、中国市場は堅調

TNZチーフ・エグゼクティブのケビン・ボーラー氏

 もうひとつのプラス要因は、隣国オーストラリアと中国の動きが非常に活発であることだ。クライストチャーチ地震の翌月(3月)は、海外からの旅行者数は対前年同月比11.4%減と落ち込んだが、4月には、オーストラリアに牽引される形で前年同月比5.2%増の19万7777人と持ち直している。イギリス、アメリカ、中国などの主要マーケットはいずれも微増。日本は52.4%減であった。

 ニュージーランド政府観光局(TNZ)は、かねてからアジア、特に中国市場の開拓に取り組んでおり、今回のTRENZでも日本のバイヤーが15社であったのに対し、中国からは40社が訪れるなど、市場の勢いを感じさせた。TNZチーフ・エグゼクティブのケビン・ボーラー氏は、「中国は爆発的な伸びが期待できる市場。旅行客受け入れの歴史は浅いが、我々は長年、日本人旅行客を受け入れながら学んできたノウハウを、中国や他のアジア・マーケットでも活かせると思う」と話す。

 中国人の旅行形態は、パッケージ・ツアーが大半を占めており、オーストラリアとニュージーランドの2ヶ国を巡る商品の人気が高い。その分、1ヶ国あたりの滞在日数は短め、日本人が使うホテルよりも若干低価格の宿泊施設を好むなどの差はあるが、観光ルートは日本人とほぼ同じ。またFIT層の中に超富裕層が潜んでいるのも大きな特徴だ。

日本市場復活への期待

(左から)NZ副CEOのノーム・トンプソン氏と日本・韓国支社長のエド・オーバリー氏

 では、日本市場はどうか。日本人旅行者数は過去15万人から17万人で推移していたが、ここ数年は10万人を切っている。修学旅行や短期留学などの需要が多いこの国では、SARSや鳥インフルエンザ、金融危機などの外的要因が旅行需要に響きやすい。クライストチャーチ地震と東日本大震災という両国の地震の影響も避けがたく、需要回復には時間がかかるとの見方が一般的だ。

 だが、TNZでは今年度も日本市場を重要マーケットに位置付けており、「日本は必ず復活するマーケットだ」(キー首相)、「既に成熟した市場であるため、爆発的な伸びは期待できないが、長期的には成長路線にあると信じている」(ボーラー氏)など、キーパーソン達からは、日本市場への期待感が示された。

 ニュージーランドの旅行・航空業界が日本市場を好意的に捉える根底には、彼らが1990年代、日本人旅行者の増加とともに成長を遂げ、日本の旅行業界と良好な関係を築いてきたという歴史がある。「我々は日本がいかに質の高いマーケットであるか、よく知っている」というボーラー氏の言葉にもある通り、業界内には日本復活を望む声が多い。

 そして、これらのコメントが単なるリップサービスではないことを裏付けるのが、ニュージーランド航空(NZ)の成田線へのジャンボ機材導入だ。両国での震災を経て、日本路線の旅客需要は54%減と落ち込んだが、NZではクライストチャーチ地震の前に発表した通り、今年12月から2012年2月の間、成田/オークランド線にB747‐400型機を導入し、座席数を従来の25%増とすることを、5月下旬に改めて発表した。

 NZ副CEOのノーム・トンプソン氏は、「5月中旬には需要復活の兆しが見えたため、当初の計画通り進めることにした。これは、我々の日本マーケット回復に対する自信の表れでもある。日本路線は収益率が高く、非常に重要な路線。ぜひ日本を再びアジアのナンバーワンに戻したい」と話す。

 現在、NZでは成田便の機材をB777‐200ER型機からB767‐300ER型機に変更。一部の便を関空経由(関空便は復路の一部を成田経由)とし、旅客の減少に対応している。NZ日本・韓国支社長のエド・オーバリー氏は「重視しているのは、既存の便数を保ち、旅行会社が一般的な6日間、7日間のツアーを引き続き組めるようにすることだ」と旅行会社とのパートナーシップを強調。「ともに天災を被った国として、日本の方々の『旅行を自粛したい』という心情も十分に理解できたため、震災後2ヶ月は積極的なセールスを控えた。だが需要は復調してきている。今後は積極的に旅行を売っていきたい」と今後のセールスに意欲を示している。

「JATAニュージーランド・ミッション」が南島を視察

キー首相とJATA副会長の佐々木隆氏

 日本旅行業協会(JATA)海外旅行委員会のメンバー各社で構成した「JATAニュージーランド・ミッション」が、5月23日から南島を訪問。クライストチャーチとロトルアの視察を行なったほか、25日にはクィーンズタウンでキー首相とJATA副会長の佐々木隆氏(ジェイティービー代表取締役会長)との会談も行なわれた。

JATAミッションを迎えるニュージーランド旅行業協会チーフ・エグゼクティブのティム・コーサー氏

 キー首相は「日本はとても重要なマーケット。日本人旅行者だけでなく、日本を訪れる観光客を増やす自信がある」、佐々木氏は「この訪問が、日本の旅行需要リカバリーの第一歩となる。ニュージーランドは語学研修や修学旅行などのニーズが高く、非常に期待がもてる。ぜひ、政府主導で各国の学生が交流できる施設を作り、語学留学に適した国であることをアピールしてほしい」と話し、旅行需要喚起のため両国の協力体制を強化する方向で一致した。

 ミッションのメンバーからは「クライストチャーチ市内を視察し、閉鎖されているのはほんの一部と実感した」、「需要喚起のためにも、同市を含むツアーの造成を早急に検討したい」などの声が聞かれた。



取材協力:ニュージーランド政府観光局(TNZ)、ニュージーランド航空(NZ)
取材:塙千春