オーストラリア、夏に向け誘客活発化へ、SITなど底堅さも−ATE会場から
オーストラリア市場では2010年、日本人訪問者が6年ぶりにプラス成長し、2011年のさらなる成長にも期待が高まっていた。しかし、3月11日に東日本大震災が発生し、オーストラリアに限らず海外旅行市場全体に不透明感と不安が広がる。そんな中で、地震後1ヶ月も立たない4月2日から4日に開催された「オーストラリア・ツーリズム・エクスチェンジ(ATE)2011」で、オーストラリア政府観光局(TA)本局局長のアンドリュー・マカボイ氏は、「回復を信じており、予算も変更しない」と強調した。「2012年には再び成長したい」というマカボイ氏や各州・地域の観光局の担当者が日本市場をどう捉え、今後どのように活動を展開する方針か、ATE2011での取材からまとめる。
▽震災影響、「短期的には日本人30%減」
実際のところ、2010年のオーストラリア市場は好調だった。オーストラリアへの日本人訪問者数は前年比12.0%増の39万8100人となり、40万人こそわずかに達しなかったものの、実に2004年以来となるプラス成長を果たした。TA本局が、2020年に日本人訪問者数を2010年比で約40%増の56万人、観光消費額を2倍の30億豪ドルに拡大しようとする新方針「2020ツーリズム・インダストリー・ポテンシャル」を設定するなど、2011年以降の日本市場に対する期待も大きくなっていた。
そんな中での東日本大震災の発生。3月の日本人訪問者数は17.8%減の3万6000人に減少した。マカボイ氏は、短期的には25%から30%程度、日本人訪問者数が減少すると予測。また、TA日本局長の堀和典氏も、過去最少となった2009年のレベル(35万5300人)にまで落ち込む可能性があると見る。
さらに原発事故もあって訪日オーストラリア人が激減。日本政府観光局(JNTO)によると、3月は46.8%減、4月は64.6%減となった。こうして双方向の需要が一気に落ち込み、結果としてカンタス航空(QF)はパース線の運休とシドニー線の一部便での機材小型化、ジェットスター航空(JQ)は一部路線での減便を決定するなど、日豪間の旅行市場に大きな影響をもたらした。
▽一部に明るさも−FIT・SIT、教育旅行に期待
ただし、暗い話ばかりでもない。例えば、タスマニア州政府観光局日本地区局長のアダム・パイク氏は「キャンセルは非常に少ない。3月中にも33名のツアーがあったが、キャンセルは3名だけだったと聞いている」と語る。また、ノーザンテリトリー政府観光局マーケティングマネージャーの鎌田亜紀氏も「影響がなかったわけではない」としつつ、「ウルルに来たい人は(多少の困難があっても)来てくださるので、インパクトは他の地域ほど大きくない」と分析する。
また、FITやSITも堅調といい、ニューサウスウェールズ州政府観光局日本局長の金平京子氏によると、同州ではこの分野の下げ幅が5%程度に留まっているという。
一方、各州・地域で多く聞かれたのは、団体旅行のキャンセルが大きかった反面、教育旅行への影響は少なかった点。クイーンズランド州政府観光局日本代表の西澤利明氏は、震災によるダメージの大きさを指摘しつつ、「一つだけ良いポイントとしては、団体旅行の6割を占める教育旅行のキャンセルが少ないこと」と説明。3月末には、教師10名がFAMでゴールドコーストやケアンズを視察したという。
金平氏も、「仙台からの教育旅行が入ってきており、勇気づけられる」と話す。教育旅行についてゴールドコースト観光局マーケティングマネージャーの小林芳美氏は、「ニュージーランドの地震によるシフトもあった」ため伸びていたといい、震災後も取り組みを強化したい考えだ。さらに、ビクトリア州政府観光局ビジネス・デベロップメント・マネージャー日本・韓国担当の高森健司氏によると、語学研修も大きな影響は受けていないという。
▽リカバリーに向けて−各州・地域観光局の方針
このように地域などによって状況が異なるが、リカバリーに向けたカギとしては、安定している教育旅行に加えて、各観光局の担当者が口を揃える「来たい人は来る」あるいは「動く層は動く」ことだろう。つまり、前述の“明るさ”の通り、他のどこでもなくオーストラリアに行きたい、オーストラリアでこれをしたい、というSIT的な“意思”の強い人ほど回復が早い。各観光局でも、こうした人を1人でも多く取り込むことが重要視となる。
タスマニアやノーザンテリトリーなどでは、もともとSIT向けのプロモーションを展開していることもあり、活動方針を変更する予定はない。パイク氏は引き続き「シニア層と、ハイキングや写真、ワイルドフラワーなどSIT」に取り組む考えを示す。また、鎌田氏も、4月から8月のウルルが涼しくて過ごしやすい点を打ち出す「ベストシーズン、ベストNTキャンペーン」を昨年から継続すると言及。また、ウルルでの滞在日数を3泊に伸ばしてキングスキャニオンを組み込む提案や、ダーウィンと周辺地域の認知度向上にも取り組みたいという。
ビクトリア州でも、全豪オープンやメルボルンカップ、メルボルンマラソンなどイベントをフックとした誘客を継続。全豪オープンについては専用マイクロサイトを開設。マラソンは日本市場でプロモーションするのは3年目で、昨年は54人が参加。今年は100人をめざし、東京に事務所も開設。なお、高森氏は「イベントへの注力は維持しつつ、教育旅行にさらに力を入れたい」という。
西オーストラリア州政府観光局日本局長の吉澤英樹氏も、ワイルドフラワーなどのプロモーションについて「特に方針は変えない」と説明。QFのパース線運休が気がかりだが、吉澤氏はあえてパース線が復便することを前提とせずに、「これまで西日本でシンガポール航空(SQ)と展開してきた経由便の提案を、東京でも展開する」考えだ。SQだけでなくキャセイパシフィック航空(CX)なども可能性を見出しており、「旅行会社とともに開発していきたい」と語る。また、来年のATEがパース開催であることから、日本からの参加者100名をめざすと意気込みを示した。
さらに、南オーストラリア州政府観光局インターナショナルオペレーションマネジャーのマイケル・シリガー氏も、カンガルー島や自然、ワインなどの訴求を継続する方針。カンガルー島については、引き続きオペラハウス、ウルル、グレートバリアリーフに並ぶ「オーストラリア第4のアイコン」として知名度向上をはかっていく。さらにシリガー氏は、「エア半島の新商品で、マグロやアシカと遊ぶツアーがおすすめ」と紹介。特にアシカについては、「アシカが子犬のようにじゃれてきて、個人的にはこれまでの人生で一番最高の体験」であったという。
一方、クイーンズランド州政観とニューサウスウェールズ州政観、ゴールドコースト観光局は、これまで以上にFITやSITの取り込みを強化。シドニーマラソンなどそれぞれの活動に加えて、新たに両州の州境付近にあるバイロンベイやマウントウォーニング、ヒンターランドなどを「パワースポット」「スピリチュアルスポット」として打ち出していく方針だ。
なお、リカバリーキャンペーンについては、「タイミングを図っているところ」(トロピカル・ノース・クイーンズランド観光局日本ディレクターの新堀治彦氏)という声が多い。ただし、6月上旬にはケアンズ市長とトロピカル・ノース・クイーンズランド観光局会長を団長としてミッションの来日が予定されているほか、ニューサウスウェールズやゴールドコーストでも同様のミッションの派遣が検討されているところだ。
▽震災影響、「短期的には日本人30%減」
実際のところ、2010年のオーストラリア市場は好調だった。オーストラリアへの日本人訪問者数は前年比12.0%増の39万8100人となり、40万人こそわずかに達しなかったものの、実に2004年以来となるプラス成長を果たした。TA本局が、2020年に日本人訪問者数を2010年比で約40%増の56万人、観光消費額を2倍の30億豪ドルに拡大しようとする新方針「2020ツーリズム・インダストリー・ポテンシャル」を設定するなど、2011年以降の日本市場に対する期待も大きくなっていた。
そんな中での東日本大震災の発生。3月の日本人訪問者数は17.8%減の3万6000人に減少した。マカボイ氏は、短期的には25%から30%程度、日本人訪問者数が減少すると予測。また、TA日本局長の堀和典氏も、過去最少となった2009年のレベル(35万5300人)にまで落ち込む可能性があると見る。
さらに原発事故もあって訪日オーストラリア人が激減。日本政府観光局(JNTO)によると、3月は46.8%減、4月は64.6%減となった。こうして双方向の需要が一気に落ち込み、結果としてカンタス航空(QF)はパース線の運休とシドニー線の一部便での機材小型化、ジェットスター航空(JQ)は一部路線での減便を決定するなど、日豪間の旅行市場に大きな影響をもたらした。
▽一部に明るさも−FIT・SIT、教育旅行に期待
ただし、暗い話ばかりでもない。例えば、タスマニア州政府観光局日本地区局長のアダム・パイク氏は「キャンセルは非常に少ない。3月中にも33名のツアーがあったが、キャンセルは3名だけだったと聞いている」と語る。また、ノーザンテリトリー政府観光局マーケティングマネージャーの鎌田亜紀氏も「影響がなかったわけではない」としつつ、「ウルルに来たい人は(多少の困難があっても)来てくださるので、インパクトは他の地域ほど大きくない」と分析する。
また、FITやSITも堅調といい、ニューサウスウェールズ州政府観光局日本局長の金平京子氏によると、同州ではこの分野の下げ幅が5%程度に留まっているという。
一方、各州・地域で多く聞かれたのは、団体旅行のキャンセルが大きかった反面、教育旅行への影響は少なかった点。クイーンズランド州政府観光局日本代表の西澤利明氏は、震災によるダメージの大きさを指摘しつつ、「一つだけ良いポイントとしては、団体旅行の6割を占める教育旅行のキャンセルが少ないこと」と説明。3月末には、教師10名がFAMでゴールドコーストやケアンズを視察したという。
金平氏も、「仙台からの教育旅行が入ってきており、勇気づけられる」と話す。教育旅行についてゴールドコースト観光局マーケティングマネージャーの小林芳美氏は、「ニュージーランドの地震によるシフトもあった」ため伸びていたといい、震災後も取り組みを強化したい考えだ。さらに、ビクトリア州政府観光局ビジネス・デベロップメント・マネージャー日本・韓国担当の高森健司氏によると、語学研修も大きな影響は受けていないという。
▽リカバリーに向けて−各州・地域観光局の方針
このように地域などによって状況が異なるが、リカバリーに向けたカギとしては、安定している教育旅行に加えて、各観光局の担当者が口を揃える「来たい人は来る」あるいは「動く層は動く」ことだろう。つまり、前述の“明るさ”の通り、他のどこでもなくオーストラリアに行きたい、オーストラリアでこれをしたい、というSIT的な“意思”の強い人ほど回復が早い。各観光局でも、こうした人を1人でも多く取り込むことが重要視となる。
タスマニアやノーザンテリトリーなどでは、もともとSIT向けのプロモーションを展開していることもあり、活動方針を変更する予定はない。パイク氏は引き続き「シニア層と、ハイキングや写真、ワイルドフラワーなどSIT」に取り組む考えを示す。また、鎌田氏も、4月から8月のウルルが涼しくて過ごしやすい点を打ち出す「ベストシーズン、ベストNTキャンペーン」を昨年から継続すると言及。また、ウルルでの滞在日数を3泊に伸ばしてキングスキャニオンを組み込む提案や、ダーウィンと周辺地域の認知度向上にも取り組みたいという。
ビクトリア州でも、全豪オープンやメルボルンカップ、メルボルンマラソンなどイベントをフックとした誘客を継続。全豪オープンについては専用マイクロサイトを開設。マラソンは日本市場でプロモーションするのは3年目で、昨年は54人が参加。今年は100人をめざし、東京に事務所も開設。なお、高森氏は「イベントへの注力は維持しつつ、教育旅行にさらに力を入れたい」という。
西オーストラリア州政府観光局日本局長の吉澤英樹氏も、ワイルドフラワーなどのプロモーションについて「特に方針は変えない」と説明。QFのパース線運休が気がかりだが、吉澤氏はあえてパース線が復便することを前提とせずに、「これまで西日本でシンガポール航空(SQ)と展開してきた経由便の提案を、東京でも展開する」考えだ。SQだけでなくキャセイパシフィック航空(CX)なども可能性を見出しており、「旅行会社とともに開発していきたい」と語る。また、来年のATEがパース開催であることから、日本からの参加者100名をめざすと意気込みを示した。
さらに、南オーストラリア州政府観光局インターナショナルオペレーションマネジャーのマイケル・シリガー氏も、カンガルー島や自然、ワインなどの訴求を継続する方針。カンガルー島については、引き続きオペラハウス、ウルル、グレートバリアリーフに並ぶ「オーストラリア第4のアイコン」として知名度向上をはかっていく。さらにシリガー氏は、「エア半島の新商品で、マグロやアシカと遊ぶツアーがおすすめ」と紹介。特にアシカについては、「アシカが子犬のようにじゃれてきて、個人的にはこれまでの人生で一番最高の体験」であったという。
一方、クイーンズランド州政観とニューサウスウェールズ州政観、ゴールドコースト観光局は、これまで以上にFITやSITの取り込みを強化。シドニーマラソンなどそれぞれの活動に加えて、新たに両州の州境付近にあるバイロンベイやマウントウォーニング、ヒンターランドなどを「パワースポット」「スピリチュアルスポット」として打ち出していく方針だ。
なお、リカバリーキャンペーンについては、「タイミングを図っているところ」(トロピカル・ノース・クイーンズランド観光局日本ディレクターの新堀治彦氏)という声が多い。ただし、6月上旬にはケアンズ市長とトロピカル・ノース・クイーンズランド観光局会長を団長としてミッションの来日が予定されているほか、ニューサウスウェールズやゴールドコーストでも同様のミッションの派遣が検討されているところだ。
取材協力:オーストラリア政府観光局、カンタス航空、ニューサウスウェールズ州政府観光局
取材:松本裕一